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最期の流儀

ここでは信濃毎日新聞の読書のコーナーでも掲載された種山千邦さんの「最期の流儀」という新刊をご紹介します。


「いのちの文化度」を示す実践報告 (評 内藤いづみ)
 『最期の流儀』というタイトルのこの本を手に取る人たちはどんな心境なのだろうか。
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 進行ガン患者の家族? 病院での終末期医療に疑問を感じる看護師? 介護職員?しかし何よりも、終末期にあるガン患者がこの本を読むのには、大きな勇気が必要だと思われる。その辺りに著者の種山医師の仕事の大きな課題が横たわっている。二十年近く在宅ホスピスケアを続けてきた私には、その苦悩の中身を想像できる。
 本を開くと種山医師の大きな顔写真がまず目に入る。患著さんのいのちに向かい合っている凛とした顔だ。私は、生と死に向かい合うサムライの顔だな、と思った。麻酔科医として、一般的な医師の仕事をしてきた著者は、実父がガンで亡くなるのを見届けてから、在宅終末期緩和ケアの実践を着実に積み重ねていく。それは病気、臓器、病変に科学として向かい合ってきた医学者の視点から、患者のいのちの主人公は本人なのだと確認する旅路でもあった。
 もし可能なら、いのちに家族と本人が向かい合うのに家が一番ふさわしいと思う。著者は勇気ある選択をした患者の人生(物語)をいくつか紹介している。病院に頼っていたガン患者たちが、家でも安心して過ごせるよう、痛みの緩和についても具体的に説明している。これからは国の方針で、否応なく重症ガン患者も家に戻ることが増えていくだろう。その時に必要なことは何なのか、ヒントを与えてくれる本だ。
 日本では五十年の間に、在宅での看取りから、ほとんどの人が施設で亡くなる現状へと変化した。「メメント・モリ」(「死を想え」のラテン語)を改めてとらえ直す種山医師の実践の報告は、その土地の〝いのちの文化度〟を示すことになろう。死もいのちの一部なのだ、と考えさせられるこのような本が、地方から出版されたことにうらやましさを感じると共に、その文化度の深さが、信州から日本全国へ伝わり広がっていくことを心から願っている。
(信濃毎日新聞社、一五七五円)
著者は種山医院(塩尻市)院長。一九五五年、塩尻市生まれ。
2008年9月7日 信濃毎日新聞より抜粋