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生き抜く先にある大往生

(読売新聞2015年3月21日より)
今年の冬は例年より厳しい寒さが長かった。しかし、暖かくなるとその寒さもすぐ忘れてしまう。そうやって一年が過ぎていく。

150406_01今年の冬は急死の訃報が多かった。20年近いお付き合いの85歳の患者さんもそのおひとりだった。元気にひとり暮らしをして、食事も自分で作っていた。スーパーで時々ばったり出会うと、お互いの買い物かごを覗き込み「今日の夕飯は何?」などと主婦の会話で笑い合う仲だった。
ある寒い朝、身内が訪問して倒れているのを発見した。私との長年の関わりを身内は知らないので、私に連絡はこなかった。新聞の訃報欄で名前を見つけて驚いた。故人宅の留守電にメッセージを入れた。「最期の様子を教えて下さい」
幾日かして連絡がきた。「あっという間に旅立ったらしい。安らかな顔でした」私はスタッフにも伝えた。「大往生だったようです」みんなほっとして手を合わせた。彼女らしい、明るい見事な大往生だと思えた。
最期の日々を、想像以上に長く頑張り抜く人もいる。あっという間に旅立つ人もいる。各々にその理由があるように私は思う。
ヘルマンヘッセがこう言っている。
「死はいい頃合いを知っている。だから信頼して待っていればいいのだ。賢明で善良な私たちの兄弟なのだ」
自分の人生の今を頑張って生きていこう。生き抜く先にその人らしい大往生がきっとある。旅立ちの場面の多い3月に、メメントモリ(死を想え)の思いが私にも溢れてきた。