エッセイ

命に向かい合う仕事

命に向かい合う仕事。医療者ならみんなそういう仕事をしている。
ただ、私は残された命の短い人と出会うことが多いので、ことさら思い出を深く感じる時が多い。

8月に33歳の旅たちに関わった。難しい癌だった。
「なぜ、私が?嘘でしょう?耐えられない、いやだ、悪夢であって欲しい」
そんな悲痛な思いでたくさん泣いた後の、出会いだった。
頑張り屋で、有能で、優しく、美しく、みんなの憧れの女性だっただろう。
みんなが彼女のために役にたちたいと思った。
彼女は積極的治療にチャレンジした。東京から山梨に戻り、私もサポートに関わることになった。
いつ、病院での積極的治療を止めるのか、様子を見ながら相談した。
彼女が決意して、退院して家でのホスピスケアの療養が始まった。
そのあたりは取材記事にもあるので、お読みいただきたい。

新聞記事

家族のそばで、命を燃やし続けて、「もう悔いはない」という言葉を残して彼女は旅たった。
出会った頃、話題になったことがある。イギリス留学の経験もあり、イギリス大好きな彼女のために、イギリス音楽祭りをお家でしよう、と。
私の友人の音楽家も協力を約束してくれた。しかし、彼女の病気の進行は早く、それは実現しなかった。残念だった。
その約束は私の心に深く残っていた。実現したかった。

49日の法事にお邪魔して、私の話の後、シンガーソングライターのチャンティーさんがピアノ演奏と共に、歌って下さった。
ビートルズのLet’s It Be から始まり、アイルランドの歌、花ビラ(チャンティーの編曲)で終わった。歌は捧げられた。レクイエムとして。
私は少し安堵した。
暑い夏、往診して見た、彼女のひまわりのような笑顔を思い出した。

内藤いづみ