思い出

冬中、大切にめんどうをみてきたシクラメン。寒い間綺麗に咲き続けてくれた。何年もの付き合いの株もある。


初夏が近づき、いつ花の始末をするか躊躇している。
まだ咲いているし、でも盛りはすぎてるし、次年度のためにすっきりしてしばし屋外の片隅に引退か?などと。
人間も最終章のしまいかたはひとそれぞれ。
老いた必死の姿を見せ続ける美学もあれば、綺麗な時に身をきっぱり引いて隠れる人もいる。
どちらの美学も尊重したい。
私のシクラメンはあと少し頑張ってもらうことにした。

さて、写真の下に見えるのは長芋。
滋養強壮によい食材。
わたしには触ると痒いという幼少時の思い出がある。
先日、甲府駅からタクシーに乗った。
愛想のよい初老の運転手さんが明るく話しかけてきた。
耳は少し遠いらしく、やや一方的に喋る。
お客さん、私には夢がありましてね。
ほう、ほうと相づちを打つ。
麦とろを食べたいんです。
私は答える。あら、それはすぐに叶えられそうな夢じゃないですか。
運転手さんはそれには返事をしない。
昔ね、小さいときにお袋が作ってくれたんですよ。
大きな擂鉢で、ごりごりすってだし汁をまぜてね、兄貴と死ぬほど腹一杯食べた。
食べたあと腹をさすりながらねっころがった。
空は真っ青。幸せだった。うまかった。あれをまた食べたい。
なるほどそれはいまや叶えることのできない夢だろうと私は思った。
大切な思い出を彩る素朴な味。
母がいて、兄がいて、青空があった。
私もそんな味と風景を子供たちに与えられたかしら?と思いつつ帰宅した。
今夜は夫婦ふたりでとろろ蕎麦にしようと決めた。
季節を乗り切る滋養強壮食。