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ひと休み。ひと休み

毎日が発見2008年5月号より

 「いのち」に関するテレビのドキュメント番組に、在宅ホスピスケアの仕事を通していのちの現場を知る人間のひとりとして、私も顔を出すことになりました。
私の往診風景の撮影やら主役の高史明さんとの対談などがありました。高さんはたったひとりの息子さんが12歳で自死するという痛ましい体験を経て、親鸞の研究を深めた小説家です。対談の場所として、私の小さな診療所にも来て頂いたのです。
 高さんは入ってすぐ、「ここは他の医療施設と違いますねえ。何というか、普通の場所みたいで、私もあなたというお医者さんの前なのに、緊張しなくて自然で居られます」
 と言いました。これは私にとって一番嬉しい感想です。ホスピスの語源は、ホスピタリティ。
 お客様を温かく受け入れてもてなすということを、職員一同頭において働いています。季節のお花やきれいな絵を飾り、心のこもった明るい対応を心がけています。病院を訪ねる人は、体にも心にも魂にも、何かの苦しみや痛みを背負っているわけですから、せめて足を踏み入れた時に、まずはほっと安心して頂きたいのです。
 「高さん、私たちはここがひと休みの診療所になるように頑張っているんです。働き疲れた人が、治療を受けながら30分いびきをかいて眠れる所。家族がほっとひと息つける所。重い病の人が、天国に行く前のひと休みの縁を結ぶ所。できれば、少し広がって、誰でも来られるひと休み村に発展すればいいなあと、心の中で密かに祈っているのです」
 仙人のようなひげをはやし、枯淡の渋い昧を出している高さんが、「なるほど。ホー、ホー」と愉快そうに笑いました。
 先日も皆で、20代の若いお母さんのいのちの最期に向かい合いました。4歳の娘さんが、泣き崩れる大人たちに向かって、亡くなってしまった母の亡骸の傍に寄り添い、「お母さんは星になったの。これからは晴れた夜にはお空を見上げれば会えるの」とけなげに言えたということを伝えると、「4歳なのに大したものだ」と深く頷いてくださいました。
 生きとし生けるもの全てのいのちの生死を考える姿勢が、小さな診療所から発信され広がること、欲張らず他者のために働くことこそ、地球の未来への希望、などと対談では思わず大きなテーマにも繋がりました。
 とにかく忙しい世の中で、お疲れの皆様。まずはひと休み、ひと休み。安心できる場所でほっとひと息つきましょう。