良いことを数える

毎日が発見 2009年1月号より

 旅先でテレビを見ていたら、 若いニュースキャスターがとても沈痛な表情で、「日本医療崩壊は深刻です。介護の現場も悲惨です」と特集番組でしゃべり始めました。日本の教育、経済、福祉、医療、環境、政治、全てが駄目だという表現が、マスコミで連日叫ばれています。
 未来への希望がなくなる暗い気持ちになる瞬間の一歩手前で、私には医療の現場にいる人間としての冷静さが戻ってきました。
 「本当に日本はそんなにひどいのだろうか?」と。少なくとも、開発途上国だけでなく、先進国も含めて世界中にみられる貧困、内乱、飢え、戦争の現実と比べてみると、改めて日本の良さに気づかされます。義務教育は全国に広がっていて、識字率も高く、高等教育の機会も整備され、大学進学率も高い国。医師不足や診療科の閉鎖が起きているとはいえ、全国に多くの病院があります。道端で倒れている人が放置される、などということはあまりないはずだし、あったらそれこそ大ニュースになるでしょう。理想と比べれば、文句も出てきますが、変えなければいけないことや、改善すべきことについて、もっと冷静に対応した方がいいのではと思うのです。
 そんな風に考えるのも、私が終末期医療をずっと実践してきたことと無関係ではなさそうです。特にがんの末期患者さんたちは、短い間に(おそらく2~3ヵ月で)自分の今まで持っていた能力がどんどん落ちていきます。
 一昨日は自分で水やりができたのに、昨日はトイレまで歩けたのに、と。マイナスの点や失った機能を数え上げたらきりがないのです。代わりに私たちは、今ある残された良い点に光を当てるように支えてきました。
「今生きている」ということのすばらしさに焦点を当てるのです。自分の人間としての身体機能が奪われることに対して、生きる希望を失い、絶望した母親に娘さんが言いました。
 「お母さん、生き抜いてちょうだい。お母さんが今ここにいてくれるだけで嬉しいの」
 母親はその言葉によって、いのちの輝きを取り戻したのです。
 私か講演で全国を回ると、日本人の美点を待った多くの方に出会います。日本は捨てたものではないのです。最近、その方たちの元気がなくなってきています。
 身の回りの良いことを数えていきましょう。
 私はどこかに「ひと休み村」を造りたいとずっと願ってきましたが、この連載の1年の間で気づきました。実は私の身近にひと休み村は既にあったのです。
患者さんやご家族がひと休みに来る私の診療所がそうです。それから、美味しいコーヒーを出してくれる友人の家。励ましてくれる家族のいるところ。体のバランス調整をして下さる治療家たち。美味しい料理店。
 今後は皆様と。ひと休み村ネットワークを作れたら幸せです。ぜひご連絡ください。
 1年間、ご愛読ありがとうございました。