がんの痛みを和らげる 第1回

薬剤師の石田さんと「がんの痛み」について往復書簡を始めることになりました。


内藤いづみから石田さんへ
神戸は梁さんという人物と友人になったおかげで、私にとって大切で大好きな街になりました。山梨県の甲府市で、イギリス帰りの勢いをかって“ホスピスの啓蒙活動”を始めた私に梁さんが
「市民と医療者が共に啓蒙活動をする全国組織を立ち上げるから参加してほしい。」
という声を掛けて下さったのが15年以上前。今やっと、患者の声ががん対策基本法などの法案にも盛り込まれるようになりましたが、当時としては画期的なことでした。
その神戸に住む石田さんも、私が勝手に“師匠”と追いかけている、元埼玉県立がんセンター総長の武田文和医師の弟子ですよね?
その御縁で知り合ったのは、何年前でしたか?
武田先生は20年前に、簡便で安全ながんの痛みの緩和法の確立と、世界戦略のWHOの取り組みに、日本から参加したただひとりの医師でした。私の尊敬する医師のおひとりです。
がんという病気は未だ恐ろしいイメージを私たちに抱かせています。
それは、“死”と直結するイメージ。
辛い副作用を伴う治療。
そして耐えがたいがんの痛みです。
このがんの痛み、特に身体の痛みを緩和する方法がある!一緒に頑張りましょう、と患者さんたちに伝え始めたのが、この15年の私の活動のひとつでした。
たくさんの出会いのエピソードが語りつくせないほど私にもありますが、薬剤師の石田さんにも、この活動に就くようになったのには、何か大きな転機のできごとがおありですか?
がんの体の痛みを緩和してこそ、その先の課題に患者さんは取り組めるのですから、啓蒙活動はとても大切なことです。怖がらずに勇気を持って知ること!が。
石田さんたちは、とても分かりやすいがんの痛み緩和のテキストを最近お作りになりましたね。ぜひそれについてもご紹介下さいね。
私は在宅ホスピスケアで、患者さんが最期まで安らかに過ごせるように頑張っています。
ひとつの仕事が終わると、心身の力を使い果たし、山登りが終了したような気持ちになります。
最近でも看取りを終えた家族がおっしゃいました。
「見舞に来た人たちが口々に言うんです。辛かったでしょう?がんは痛かったでしょう?見ていられなかったでしょう?って。ずっと安らかだったと言っても信じてくれません。」
私たちの運動もまだまだこれからですね!どうぞ、薬剤師の立場で多いに語って下さい。
お返事をお待ちしています。
P.S 今回は初めての往復書簡なので、簡単なプロフィールを始めに付けて下さいませ。

内藤いづみ先生のお手紙を拝見しました。
お話されている先生の姿が目に浮かぶようで心温まりました。ありがとうございます。
内藤いづみ先生の講演をはじめてお聞きしたのは、神戸で行われた日本ホスピス・在宅ケア研究会でした。

テンポのよい口調とユーモア溢れる感動たっぷりのお話を聴いて、感動しました。
いつも素敵なお話をして下さり、感謝しています。
はじめに簡単に自己紹介を致します。
名前は石田有紀(いしだゆき)、三人姉妹の末っ子、出身は兵庫県西宮市です。
神戸薬科大学卒業後、薬剤師になり、研究者を目指して大学院へ、
卒業して5年後私は製薬会社で抗がん剤の臨床開発をしていました。
今の活動につながるきっかけは、抗がん剤の臨床開発をしていた時に出会った人々とたくさんの気付きでした。
その一つを紹介します。
積極的ながん治療が向かないのに無理な治療をしたため、急速に病状が悪化したがん患者さんを知る機会があり、
がん治療だけが希望ある選択肢なのだろうか」「ホスピスを選択していれば、もっと穏やかな最期があったのでは」と思うようになりました。
ホスピスケアは認知度が低く、誤解が多い状況でしたので、もっと正しく広まって1人でも『笑顔で「さようなら」を』言える状況が増えてほしいと思いました。
『笑顔で「さようなら」を』は内藤先生の著書のタイトルで、素敵なお言葉ですね。
日本だけでなく外国のホスピスケアを見て見聞を広めたいと思い、仕事を辞めて米国のホスピスへ行きボランティアをすることにしました。
在宅ホスピスケアを受ける患者さんのご自宅へ訪問したとき、
患者さんの笑顔と優しさに触れ感動したのをよく覚えています。
帰国後、薬剤師としてがん患者さんの話を聴き、またホスピス病棟での傾聴活動もはじめました。
がん患者さんとご家族の支援をするため、手探りで有限会社メディカルケアプランニングを立ち上げました。
そんな中、自分のすることが見えなくなり迷子になっている時、内藤先生のご師匠で、私も師匠のように尊敬申し上げる、武田文和先生にお会いしました。
はじめてお会いしたのは2006年2月、雪深い秋田でした。
もっと前から存じているような気がしています。
武田文和先生はがんの痛み治療、それを広めることも私の役割だと教えていただきました。
「そんな差し出がましいこと!」とはじめは思いましたが、「がんの痛み治療を広める」大切さを武田文和先生から伺い、できる範囲で取り組もうと考え直しました。
それから・・・ホームページに疼痛緩和のページを開設、講演の時は可能な限り話題にあげ、がんの痛みの相談にのっています。
また今年2008年1月に「がんの痛みよ、さようなら!~こうすればとれるがんの痛み~」という本を発売しました。
これは患者さんにがんの痛みとその治療法、中でも医療用麻薬を、正しく知ってもらうため武田先生を中心として医師、看護師、薬剤師が協力して作ったものです。
最近、こんながんの痛みの相談がありました。
「父が『麻薬は絶対使わない。まだ俺はそんな段階じゃない!!』とがんこに言い張って、痛みに苦しみ七転八倒しています」
「麻薬を飲み始めたのですが、痛みが取れません。」
「医師に『痛みの箇所が検査からはわからないので麻薬は使えない。』と言われたのですが」・・・
痛みを放置しているのはとても患者さんにとってとても辛いことです。
痛みが放置されないためには、
医療用麻薬に対する誤解や偏見を取り除くこと、
医療用麻薬はただ投与すれば痛みが取れるわけではなく一人一人にあった量や方法を見つける必要があるということ、
痛みがあればすぐに治療をはじめること、が大切です。
本には詳しくそのあたりの内容を盛り込んでいます。
他にも各執筆者が医療の現場で患者さんから実際に受けた質問を集めQ&A集を作成しました。
患者さんの声から生まれた本ですので、多くの患者さんの疑問に答えることができると思います。
内藤先生は、診療に執筆に講演にご多忙の日々を送っておられることと思います。
どうぞご自愛下さいませ。