英国に学ぶ老いの最終章

2013年2月16日 読売新聞より

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厳しい冬の寒さに縮こまっていた体が少しずつ伸びてきた。陽の光が明るくなって、春の花々も出番待ちだ。

 幸い重症な患者さんがいなかったので、私は年末年始にイギリスヘ弾丸ツアーで出掛けてきた。在宅医として24時間背負ういのちへの責任からしばし解放され、寒波の緩んだクリスマスのロンドンとイギリス中部をのんびり歩いてきた。

 旅の名目は90歳に近い義母の様子を見ること。坂道の多い環境と、意思の強さゆえか、義母は衣食住とも見事に自立したひとり暮らしをしていた。地下から石炭を運んで、自ら暖炉に火をおこしてくれた。

 在宅医という仕事上、私は介護や看護が必要な高齢者と接することが多いので、義母の鮮やかな自立ぶりに驚かされた。秘訣は何だろう?と聞いてみた。

 「日本では素晴らしい介護システムがあるんですって? それは有難いことだろうけれど、私たちはお世話されすぎるのは嫌なのね。できるだけ自分のことはぎりぎりまで自分でする本人の気持ちが大切だと思う。頑固と紙一重ね」。
義母はウインクしてほほ笑んだ。

 いのちの主人公であることの気概と言うべきか。日本文化の「甘え」の構造はさておき、老いへの支援方法を考えるには、いつも相手への正直な問いかけが必要だろう。

 日本では国の方針で在宅ケアヘの流れが加速して、地域でのシステム強化も進んでいる。受け入れ態勢と当事者たちの納得はまだ間に合っていない。在宅での看取りまで求められた時、現代の日本人の死生観はあまりに脆弱だと感じる。

 在宅ケアやホスピスの歴史のあるイギリスでも、実は在宅死は23%程度で多くない。
違うのは、老人ホームでの看取りが日本では2%と少ないのに、イギリスでは13%、スウェーデンなどでは30%と多い。いのちの最終章をどこで、どう迎えるか。大切な人のいのちをどう支えていくか。いのちの主人公の私たちが、まず、自分のいのちに向かい合い、腹をくくって考える時がきている。