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生命の原点に立ち戻る

山梨日日新聞2022年3月16日より

新聞記事

在宅ホスピス医で甲府・ふじ内科クリニック院長の内藤いづみさんと、ゲノム(全遺伝情報)に注目し生き物の歴史と関係を読み解く生命誌」を研究する中村桂子さんの対談を収めた「人間が生きているつてこういうことかしら?」が刊行された。
地球温暖化や経済格差が深刻化する中、新型コロナウイルスが世界的に流行し、生き方を見つめ直すことを迫られる時代に、いかに生きていくか。生命誕生以来のいのちのつながりの中にある人間の存在を見つめ、提言している。

「いろいろな人間の営みの結果が壁にぶつかり、限界が生じている。だけどみんな目をつむっていて、なんとかなると思ってきた」と内藤さん。
人間の生き方を振り返り、危機的な今を転機にしようと生命誌の提唱者である中村さんとの対談を企画した。
中村さんは両親が甲府市出身で、自身は現在の身延・下部地域に疎開した経験がある。
本書で語られているのは、内藤さんがホズピスケアを学んだイギリスでの経験やその人らしい最期を過ごした患者の物語、生き物のつながりなど。
日常を普通に生きるすばらしさ、人間も多様な生き物がいて成り立つ世界の中に暮らしていて「上から目線」はありえない、といったことがつづられている。
生きものは38億年前に生まれた祖先細胞から始まり、現在の生きものはすべてそこから生まれたもの」。同書の中で中村さんは説明する。長い時間をかけて多様に発展したが根っこは同じといい、チョウと人間の共通点なども紹介されている。

大いなるもの

対談では東日本大震災の際に「想定外」という言葉が盛んに使われたことも話題に。中村さんは「自然は『想定外』だらけ」と述べ、人も自然の一部であり、思いがけないこともあるという生きものの感覚を持とうと提唱。ウイルスの変異も例に、
分からないことに上手に向き合う大切さやその手だてにも考えを巡らせている。
対談を振り返り、内藤さんは大いなるものに目を向けることは、生き抜くための力になる」と語る。一生懸命生きるんだけど(生命の歴史の中では)人の一生はささやかなもの。死の恐怖を感じる人も、宇宙や命の誕生といった時間に目を向ける
と、肩の力が抜けるかもしれない」

読書とラジオ

在宅ホスピス医とし患者に寄り添ってきた意味も再確認した。命の終わりが見えた時にその人らしく旅立つには「好きな場所、いたい所にいるのが自然の一部ということ」とあらためて感じ、「私自身も自然の一部になれるようなスタンスで、一人一人に向き合っていきたい」との思いを強くした。
科学が進歩しても「人間が解明したのはほんのわずかなこと」。それを自覚すると「素朴に命の原点に戻って生き抜くしかない。今日を一生懸命生きればいい」と思えるという。
人との距離を取ることを強いられるコロナ禍で読書とラジオは人間性を保つ最後のとりで」と考える。本を読み、話を聞くことは想像力を働かせ、人を思いやる時間になる。そうした経験も大事に「目の前の命を大切にしてほしい」と語った。
ポプラ社刊、1650円。