エッセイ

番長の最期


半年もたない、といわれたいのちがおかげ様で2年半も延びた。
何ももうのぞまない。
友人や伴侶のおかげで自分の行き方もつらぬけた。
最期を苦しまないようにだけ、先生お願いするよ。
外来に週2回自分で30分運転して通ってきて2年半。
Kさんの病気はいっときの平和をもたらしながらじりじりと進行した。
人生の生と死が日常のくらしの中に姿をはっきりとあらわさない日本の現代社会では、末期がんと宣告されたその日から、師匠なしで初めて死と向かい合う訓練を患者さんたちはあたえられ、そしてある人たちは悟る。
それは「死」ではなく「人生を生きる」「今を生きる」という道のりなのだと。
ひとり残される奥さんに必死によりそってKさんの顔は日々りりしさを増してきた。
「先生、往診はまだだいじょうぶだよ。」
心配顔の私にそう言った数日後、定期的なパチンコにもでかけ、ごはんを食べた直後、意識が落ちていき、その後目を開くことはなかった。
毎日新聞に「番長の心意気」というエッセーが載り喜んでいたKさん。
自分の行き方を最期までつらぬいて、未練なく数時間であっという間にあざやかに旅立った57才。
内藤いづみ


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