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「こんな最期」想像して

2018年9月14日毎日新聞「身じまい自習室」より

新潟市の妙光寺で8月末に行われた「送り盆」のトークイベントで、在宅ホスピス医の内藤いづみさんが甲府市から呼ばれて講演した。
演題は「いのちを学び、未来を選ぶ」。生きている人と死者が出会う寺という場所で「みとり」の話を聞くのは、なかなか味わい深かった。

この寺は1989年、日本で最初にできた合葬式共同墓「安穏廟」の寺として知られる。血縁ではなく「墓友」をつくって墓に入ろう、という運動を、前住職の小川さんが始めた。「平成の葬送大変動」の発端となる出来事だったけれど、実は、檀家制度の危機を見越してのお寺のあり方の模索でもあった。
ただ、古くからの檀信徒と、首都圏在住の新しい会員たちの融和をどうするか。そのことに心をくだいた小川さんの一つの結論が、毎年夏の「フェスティバル安穏」。今は送り盆の催事と名前が変わったが、著名人のトークイベントなどを新旧の寺の縁者が総出で盛り上げてきた。安穏廟ができて30回目。節目の年は「いのち」を考えたいと、在宅ホスピスの先駆者、内藤先生が呼ばれたのだった。

本尊の前の特設ステージで講演は始まった。病院ではなく、自宅で最期を過ごすことは大変だけど、本人の思いと家族の覚悟、そして医療・介護者のサポートがあれば可能なのだ。内藤先生はそう説いていく。師匠と仰ぐ故・永六輔さんから学んだ軽妙なトーク術。聴衆は笑い、「そうそう」とうなずき、何度も涙を流した。

内藤先生は集まった人に呼びかけた。「ねえ、みなさん、未来のこと、創造してみて。亡くなる日に、自分がどこに寝ているか」そこはベッドだろうか?それとも布団だろうか?カーテンの色は・・・。先生はまず自分のイメージを話してみせた。海のない山梨の生まれだから、海の波のザーっていう音は苦手。山がいい。速しの中を通り過ぎる風の音、チチチって鳴く小鳥たち、かすかに庭の花のにおいがするベッドにいる自分・・・。

どんな楽曲を聴きながらあの世に行きたいかも創造してみて、と言った。
さだまさしを聴いていた患者を知っている。末期がんの夫に小田和正を聴かせていた妻は、夫が突然うなり出したのでうろたえた。主治医はじっと耳を澄ませて告げる。「奥さん心配ないよ。ご主人は小田さんの歌に合わせて歌っているんだよ!」

先生は「楽曲じゃなくて、お経でもいいのよ」と言った。お寺だからなのか。自分の最期を思うのが楽しい。「どこに寝ていて、誰がそばにいてほしいのか。本気で想像してみて!」。まずそうしてみることで、思いはかなう。そう信じている。