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未来への切符~子どもたちへ

2015年7月5日に古平町文化会館で開催した「ふるびら和み講演会」の様子が7月23日の介護新聞でとりあげられました。

私は英国のホスピスでがん患者、障害者、お年寄りがどういう風に暮らすかということを、結婚して子どもをふたり産み育てる中で見てきました。そこで学んだことを皆さんに伝えるのが私の役目だと思って、日本中を講演しています。

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英国のホスピスでは、胃がんで余命数日の患者さんが、朝起きたらパジャマではなく、きちんと自分の好きな洋服を身にまとい髪を整えてお化粧しています。
また、この患者さんから「どうしてあなたは私に点滴をすすめるの?点滴は私を3時間ベッドに縛りつけます。それより、大事な家族が作ってくれたスープを一口飲む方が私にとっては幸せなのよ」と言われたことが強く印象に残っています。
日本では長い間、色んな治療をしてもらうのが良い医療だと信じられていたので、そこから抜け出すのに時間がかかります。今まで濃厚な治療を受けていた人が、「何もしない」と医療者に告げられるのは危険すらも伴い、難しい問題です。いのちに寄り添うという視点があれば、その人に一番大事なケアをおすすめできる。そういう信頼関係をまずは構築することが必要だと思います。

日本に戻ってきて、色んなところでホスピスケアの講演をしましたが、「内藤さんみたいに経営を考えず趣味みたいにやっている医者しかできないよ。日本人に受け入れられるわけがない」と、背を向けたのはお医者さんでした。
当時がん告知も進んでおらず、そんな時代にお医者さんを追いかけて「話を聞いて」と引き戻すことを、私はやめました。
一方、私の話を一生懸命聞いてくれたのが、看護師さんでした。「末期の患者さんがいる病棟で、私たちがどれだけ心を痛めているか分かりますか。家に帰りたいという言葉を飲み込む患者さんたちを看取る私たちも傷ついているんです」と主張し、看護の世界は変わりました。
「いのちに寄り添うケアをしたい」と本気で願う看護師さんたちのおかげで、訪問看護ステーションも増え、緩和ケア専門の看護師さんたちも育ってきています。
最期まで色んな人に支えられながら可能な限り自立して「ありがとう」と言ってこの世に別れを告げられたら、世界で一番「お見事」な人だと思います。

「ありがとう」と旅立つ「お見事な人生を」
私は往診する中、色々な苦労を重ねながらも最期に「さよなら」と言えた人には「お見事でした!」と言っているらしいんです。がん患者で認知症があるおじいちゃんが、亡くなる当日に孫やひ孫が幼稚園で習ってきた踊りや歌を披露し「おじいちゃん、楽しかった?」と尋ねたら、「楽しかったよ」と答え、その夕方には亡くなりました。
私が「見事な大往生でした」と伝えると、家族が「だって先生、往診のたびに認知症で5分経ったらすぐに忘れちゃうおじいちゃんの耳元で『大往生ですよ』と繰り返し言っていましたもの」と。催眠術をかけたのかな?
末期がんのおばあちゃんについて、その娘さんと小さな子どもたちが私の外来に相談に来ました。病院では辛いことばかりで、おばあちゃんは窓を開けて、「いっそ死ねたらどんなに楽だろう」と思うほどだったそうです。がんが全身に転移し、脳の手術も行い、人工肛門もある重症な方でしたが、引き受けることにしました。子どもたちのピカピカ光る眼で「おばあちゃんを助けて下さい!」と言われたら、断れますか。
私は子どもたちも看取りの場に居てよいと思っています。文部科学省の人の前でこの話をしたら、「こんな小さな子どもが看取りによって心にトラウマが生じたら、内藤先生はどう対応されるのですか」と言うのです。
おばあちゃんが家に居て幸せだと子どもたちに伝え、この世に別れを告げて天国へ行くのを子どもたちが見届けるのは大きな勉強となります。子どもたちはおばあちゃんから未来の切符を手渡されるのです。ただし、粗っぽくやってはだめです。周囲の信頼関係の元で、子どもたちが恐怖を持たないということを見極める必要はあります。

「看取り」の鍵は家族の強い決意と選択
全身がんに侵されていたおばあちゃんは、孫たちに見守られて安らかな顔で旅立たれました。現在、この子たちは中学生、高校生に成長しました。彼女たちも私のことを忘れないでいてくれて、「おばあちゃんのこと、ありがとう」と言ってくれます。こういうことが幸せだなと感じます。
看取りは、「ホスピス医や看護師が少ない」「独居だから」「老老介護だから」と、さまざまな「できない」理由が挙げられていますが、実は、これらは大した問題ではないのです。
看取りに必要なのは、本人が自宅で最期まで過ごしたいという意思のほかに、さらにもっと大きいのが、家族や本人の最期まで家に居るという決意です。「最期まで看取る」という強い決意と選択なのです。私たちは、元気な時から色んなことを学んでいかなければならないと思います。
いのちは時間です。今日は皆さんと大切ないのちの時間をここで共に過ごすことができました。私の話の中に散りばめた色々な物語が皆さんのお役に立てたら本当に幸せです。私の看取りには小さな子どもたちも入っています。
子どもたちは死ぬことは寂しいし、会えなくなることは辛いけど、それは大きな悲劇ではないということを、亡くなる人から確かにもらっているのだと思います。それが、未来への切符を手にすることなのです。
私自身、永遠の別れのあとに、ご家族との繋がりが続くのは、なんて幸せな医者なのかと実感します。
皆さんも未来の切符を持っています。それをどこかで大切な人に渡して下さい。