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いのちを支える在宅ホスピスケア

末期がん患者のためのトータルケアとしてイギリスを発祥地に普及してきた在宅ホスピスケア。人間としてあるべき最期を家族と医療者がどうサポートしていくかなど、日本におけるこれからの在宅ホスピスケアを紹介します。


東京医師歯科医師協同組合が発行する「TMDC MATE」2008年7月号に掲載された「いのちを支える在宅ホスピスケア」という記事の抜粋です。
在宅ホスピスケアが誕生した理由
 医療制度が整わず、社会的理解度が乏しいとしても、「在宅ホスピスケア」を実践することが、自分の医療者として立つ場所と自覚して、20年近くマイペースで歩んできました。最近社会も医療制度も変化し、「在宅ホスピスケア」が普及する下地が整ってきています。それ以上に、どんなに苦手意識があっても国の方針の基に、重症患者さんがどんどん家に戻される事態になりつつあるのです。「知りません。分かりません。できません。」では済まないのです。ですからこの文章を通じて、皆様に少しでも理解を深めていただければ幸いです。
 1000年近く前から、キリスト教の巡礼者を救済する施設としてのホスピスは存在していました。現在のように、進行がん患者を対象にしたホスピスケアは、イギリスで1960年代に誕生しました。がんによる身体的痛みを、モルヒネなどの鎮痛薬を安全に使用して緩和する方法を世界中に広めた中心人物が、女医のシシリー・ソンダースです。まず体の痛みを緩和し、次に心、社会的、そして霊的(スピリチュアル)な痛みに向かい合う(トータルペインに向かい合う)ホスピスケアの理念は、やがて宗教、人種、国境を越えて緩和ケアという医療の形で世界中に広がっていったのです。何よりホスピスケアは、まず世界中のナースたちに支持されました。
 私は1980年代後半に、英国スコットランドに数年暮らす間に、市民運動としての現代ホスピスの誕生と発展に少し参加することができ、医師として目から鱗が落ちた思いがしました。
 なぜか?
 それは、がん告知も少なかった当時の日本では、がん患者は主体的に自分の人生の最終章を選ぶことはできませんでした。何をお手伝いしていいのか分からず、歯がゆい後悔がいつも残りました。イギリスでみたホスピス運動とは、医療に預けつばなしだった自分のいのちを、自分に取り戻す道だと感じたのです。当時のホスピス運動は、本当に力強いエネルギーに満ちていました。
「治らない」段階の患者をトータルで支える
 もう25年以上前のことになりますが、私はイギリスに渡る前、大学病院で出会った23歳の末期がんの女性を、家族と協力して家で看取りました。
教えてくれる先輩も、まねできる見本もありませんでしたが、本人の「家に帰りたい」という気持ちを叶えたくて、若さの力でがむしゃらに23歳のいのちに寄り添いました。
家族に囲まれた平和な日々の積み重ねではありましたが、「治らない」という段階の患者の人生に寄り添うことの大変さも、同時に学びました。その後渡ったイギリスで、既に大勢の人が医療者だけでなくボランティアも加わって、チームで在宅ホスピスケアに取り組んでいるのをみて、とにかく驚きました。直接お会いし、教えを請うたシシリー・ソンダース医師はこうおっしゃいました。
 「ホスピスは建物ではないのです。治らない段階のがん患者の苦しみを緩和し、トータルな人間として支えるケアの中身です。それは家でも病院でもできることです。」
 そして、私はこの言葉を胸に日本に帰り、ホスピスの中身を伝える啓蒙活動を始めたのです。
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在宅ホスピスケアの日本での問題点
 日本に帰って実践を続ける中で、一般の皆様ががんという病気が進行しても家で平和に過ごし、家で息を引き取る、ということをしたくても実現できないと思ってしまう背景がいくつか分かりました。
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①死について考えることが少ない。
 戦争も飢餓もない平和な60年を過ごしてきた日本では、病院での死が80%近くを占め、身近に死を見ることが少なくなった(60年前には80%が在宅死)。また、出産も医療施設。いのちのリアリティに触れる機会が減った。家より病院に居る方が安心と感じる。
がんを治す治療に期待が大きい。諦められない。
②介護者がいない(核家族)。
 実は、進行がんの患者の介護が特に重要になるのは、最後の約3ケ月。この間に家族が力を合わせれば何とかなる。
③引き受けてくれる医療チームが見つからない。
 24時間体制で引き受けてくれる診療所は全国的にまだ多くないが、少しずつ増えている。訪問着護ステーションの実力は上がってきて、頼りになるところも多くなった。
④家では痛みが取れないと思っている。
 がんの鎮痛緩和の方法は、この20年で飛躍的に発展した。身体の痛みを放置することは許されない。安全にできるWHOがん痔痛緩和法を、医療者がしっかりと学ぶことが重要。家でも痛みは取ることができる。
⑤病院に見捨てられるのは怖い。
 必ず病院と連携を取ることを、本人に約束する。
 在宅ホスピスケアは別時間体制で、医療者の心身が緊張する仕事です。よい仕事をするために、自分たちの健康管理も欠かせません。
しかし、たくさんの患者さんを抱えなくても、チームと連携して一人ひとりとじっくりお付き合いする方法もあるのです。何よりご家族と私たちが力を出し切って、いのちに寄り添えたとき、病気そのものは治せなくてもそれは決して医療者の敗北ではなく、信頼関係を築きながら患者さんの人生にお役に立てた、という充実感を与えていただけることに気づくでしょう。
医療荒廃が叫ばれる現在の状況において、私たち医療者に、新たな誇りと希望を創り出す大切な分野になりうるだろうという予感がします。


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