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落ち込みから抜け出せないあなたへ

いきいき2014年8月号「こころの処方箋」より
最終回のゲストは、登山家の田部井淳子さん。2012年、「いきいき」4月号で山歩きの企画にご登場いただいた直後、腹膜にがんが見つかり、「余命3か月」の宣告を受けた田部井さん。抗がん剤治療を続けながらも山に登り続け、今は良好な状態を取り戻しています。「死は必すいつか訪れるもの。だったら今を楽しまなくちゃ」。前を向いて歩み続ける田部井さんと内藤さんが、幸せな生き方について語り合いました。

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この日が初対面のおふたり。福島の医大で学んだ内藤さんは、第二の故郷・福島出身の田部井さんとの対談を楽しみにしていました。

内藤いづみ(以下内藤) 田部井さんは雲の上の人というか、山の上の人というか(笑)、お会いできる方だと思っていなかったのでとても光栄です。

田部井淳子(以下田部井)こちらこそ、ありがとうございます。

内藤 震災後、被災された地元のみなさんの支援をしていらっしゃいますね。

田部井 2011年6月から避難されている方たちと毎月ハイキングを続けています。
それと、被災した東北の高校生の富士登山プロジェクトも一昨年からやっていて、1回目は61人、2回目は71人が登頂しました。今年も7月下旬に行きます。
田部井さんに前回「いきいき」にご登場いただいたのは、12年4月号でした。その取材の直後、田部井さんは体に異変を感じました。診断結果はがん性腹膜炎、ステージⅢC。
余命3か月の告知を受けます。

内藤 お体はもう大丈夫ですか。

田部井 おかけさまで先生には「寛解(かんかい)」と言われています。

内藤 「寛解」は症状が落ち着いているという意味ですね。

田部井 07年の乳がん以来。2回目のがんでした。「最近お腹がチクチク痛い」と福島で医者をしている兄に電話で相談したら「すぐに来い」って言われて。診てもらうとお腹に張りもあったので大きな病院に行ったほうがいいということになり、検査をしました。
結果を聞きに行くと、若い担当医がとても深刻そうにして、私の顔を見ないんですよ。そして「腹水にがん細胞がいっぱい散らばっていて、骨盤の中にも入り込んでいる」と。「あとどれくらいですか」と聞くと「6月……」って。3月のことでしたから、余命3か月ってことだったんです。

内藤 それはショックでしたでしょう。

田部井 「ついに私にも来ちゃいましたかー!」って感じ(笑)。これが40代だと受け止め方が違ったかもしれないけれど、もう散々いろいろやらせていただいて、明日死んでも悔いがないように生きてきましたし。2週問後、都内の病院に入院し、CTスキャンを撮り直してびっくり。散らばっていたがん細胞が黒い帯状に広がっていたんですよ。この進行の速さはさすがに私も「えー」っとなって。でも、女性の担当医が笑顔でこう言ったんです。「今はいい薬が出ていますから、5月には『あれはなんだったんだろう』ってなるかもしれませんね」って。

内藤 最初のお医者さんとずいぶん違う反応ですね。医師の言葉は重いです。無責任なことは言ってはいけませんが、患者さんを力づけたいと思ったら、前向きな言葉で励ますことが大事だと思っています。
「腰が痛くて歩けない」と言って、私のクリニックに来た女性は、最初に診察を受けた病院から「治りません」とはっきり言われて、ショックで階段を上がるのに3時間もかかるほど悪化したと嘆いていて。でも私はこれまでの経験と直感で「治ると思うよ」と彼女に伝え、実際に完治しました。彼女は私の言葉を聞いた瞬間、体中の細胞のスイッチが「治る!」ってオンされた感じがしたんだそうです。

田部井 そういうことってあると思います。私も先生に前向きなことをニコニコして言われたから、「やっぱり3か月なんてことはないよな」と思って、最新の医療を信じてゆだねました。抗がん剤投与は全部で24回、毎週1回通院して、点滴をして。抗がん剤は劇的に効きましたが副作用はひどかったですね。手足がしびれて、足は鉛のように重たくて自分の体ではないみたいでした。今も体の冷えと倦怠感は残っています。退院したのは同じ年の7月19日、翌々日には富士山5合目で、先ほどお話しした高校生たちを激励して富上登山に送り出しました。

内藤 その気力がすごい!今は病気と上手にお付き合いできている状態ですね。

田部井 なるべくストレスをためないようにしていますね。よく笑って、よく食べて、よく飲んで。私、よく食べるから仲間から「多食胃」なんて呼ばれてるんですよ。

内藤 寛解したのは薬が効いたことと、精神力の強さも大きいでしょうね。

田部井 山のおかげで今置かれた状況下でいかに最善の方法を探るか、そういうものの考え方を自然とできるようになっていました。山は死と隣り合わせですから、常にいつ自分は死ぬかわからないという意識をもってきたというのも大きいですね。さっきまで話していた人があっけなく亡くなるという場面に遭遇してきましたし。だから毎朝家族を「いってらっしゃい!」と元気に見送るようにしています。これで最期の別れになるかも知れないから、嫌な思いを残さないようにしようって。

内藤 いつ死が訪れるかわからないという感覚は、平和な時代に生きる私たちは忘れてしまっていますね。でも、どこかで肝を据えて死を意識することは大事だと思います。

田部井 人間関係も鍛えられました。私はもともと福島訛まりを気にして大学を3週間休むような性格。登山隊の隊員から「ママさん隊員は頼りない」つて言われて落ち込んだこともありました。でもいつの間にか割り切ることを覚えたんですね。人から何を言われても死にはしないでしょう(笑)。雪崩に遭って「もうだめか」という恐怖を味わいましたから、あれに比べたらなんてことない。

内藤 「終活」もされているのですか?

田部井 なーんもしていないんですよ(笑)。終活する時間があったら今やりたいことをやって楽しく生きたい。死は登山みたいに計画を立てられないもの。今の目標は、世界中に登山をサポートしてくれる「アッシー君」を作って各国の最高峰に登ること。国連に加盟している193か国のうち、行ったのはまだ68か国。6月はクロアチア、8月はアンドラ公国、9月は東ティモールの最高峰へ行きます。

内藤 田部井さんみたいに壮大なことでなくても、ふだんと違う場所へ行ってみるとか、新しいことを始めてみるとか、そういう身近なことでいいと思うんですね。一歩踏み出せば新しい発見や感動がそこにあって、誰でも生き生きといられるんじゃないかと。しかし、ご家族は田部井さん亡き後大変そうですね(笑)。

田部井 2歳下の夫には「私より1日でも長生きして、私の秘密を始末してから死んでね」って言っていますよ。

内藤 私もこれまでずいぶん夫に支えられてきましたが、田部井さんは?

田部井 病気して以来、料理も掃除もやってくれて本当にありがたいです。「この味、ちょっと……」ということもあるけれど、まずは「ありがとねー」と感謝。
その後「次はこうするともっとおいしくなると思うよ」と注文。よくサポートしてくれるので、夫の趣味の車については目をつぶるようにしています。

内藤 ほめたり感謝したりするのは大事ですよね。うちの夫は洗濯の干し方やたたみ方が上手だから、洗濯担当。私は毎朝おいしい紅茶を入れてあげることで、感謝の気持ちを伝えています。

田部井 夫が定年退職してから、一緒に山に登る時間は増えました。自分の足で一歩一歩進んで、頂上で見る景色は最高です。やっぱり私は、あの喜びと感動を生きている限り味わいたい。歩くことは生きることだと思っていますから。

内藤 がんが全身に転移し、「最期は家で」と決めた90歳の患者さんはある晩、娘さんに「今夜は旦那のそばで寝ろ」と言って、自分で歩いてトイレに行きました。亡くなったのはその翌日。みんながこんなふうにできるわけではないけれど、「自分の人生は自分の足で歩むもの」ということを私はお伝えしたい。医師は依存されるものではなく、あくまでお助けする立場だということを。

田部井 亡くなるときは、ひとりですもんね。

内藤 私は田部井さんの本を読んで「山での酸素吸入は、標高7500メートルから」という話に衝撃を受けました。今の医療は、延命のために簡単に酸素吸入をしています。

田部井 山での酸素はありがたい。効果はてきめんで、あっという問に回復しますよ。

内藤 最期の時が近づいて呼吸が速くなると一見つらそうなんてすが、あの段階になると本人は何も感じていないんです。でもここで酸素吸入すると脳が刺激され、逝くべきときに逝けなくなってしまう。

田部井 私は家族に「延命措置はしないで」と言ってあります。看取りもいらない。「何もいらないし、騒ぐな!」って(笑)。駅まで見送りに来た人に「見送りはもういらないから行って」って、あの感覚ね。
死は自然なことだから生きている人を煩わせたくない。

内藤 私は今まで「看取りは山登りに似ている」と言ってきました。実は登山は苦手なのに(笑)。人生の山頂を目指す患者さんとそのご家族と」一緒に「隠れ隊長」の私も登り、患者さんが天国に旅立つのを見届けたらご家族と一緒に「下山」する。そんなイメージで命に寄り添ってきました。でも、田部井さんを前にして、もうえらそうなことは言えないなって反省しました(笑)。

田部井 じゃあ今度一緒に山に登りましょうよ。一回体験してみると、実感がわくかもしれない!

内藤 そうですねえ……。では今度ご一緒させてください。在宅ホスピス医として経験値を上げねばならないことはまだまだありますね(笑)。


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