往復書簡

初心者のためのワインQ&A 3

~AKI兄さんへ~
北海道の初夏は美しいことでしょう。黄金週間はいかがお過ごしですか?
年度末はお互いに忙しかったですね。我が家も長女を大学に送り出しました。ほっとしたり、さびしかったりで、親の気持ちも複雑です。子離れの痛みを味わうのも親の修行のひとつですね。お互いの成長のひとときとして時の流れをながめているところです。


080509_004.jpg先週はクリニックのスタッフ全員で甲府市北口にあるサドヤ醸造場でのランチを楽しみました。
運転の関係でせっかくのワインを楽しめたのは2名でした。もちろん私は味見しました。
山梨県穂坂地区のブドウから作られたワインは口あたりのよいすっきりした味でした。
おいしいフランス料理をたんのうした後は特別コースで700坪に及ぶ地下の貯蔵庫、展示室などをガイドツアーしました。地下はうす暗くひんやりとしていました。サドヤは創業1917年ですからワイン作りには古い歴史を持ち、かつて使っていた地下貯蔵タンクなどはとても興味深かったです。
説明からもよくわかったのですが、ワインは作られてからも少しずつ熟成するお酒だということ。
コルク栓をうってからもそうですね。だからこそ保存環境が大切なのだと納得しました。080509_003.jpg
サドヤ醸造場
TEL 055-253-4114 地下セラー見学は要予約
フランス料理は併設レストラン「パピヨン・ド・サドヤ」
実は黄金週間を私は自分の健康管理のためにつかっています。
指導者のもとでマクロビオティック理論による半断食セミナーをいわき市の山奥で受けています。
色々と学ぶ体験学習です。
五感がきたえられてきます。
縄文人が住んでいたというこの地域は緑の林の中にあり、せせらぎの流れがいつもきこえ、鳥が鳴き、風がふきわたっています。
太陽の光をうけて軽い山登りや体操を朝6時からしているんですよ。
正直言ってなまった体には山道の運動がとてもきついです。
マクロバイオティックは陰陽の考えのもと、未精製の穀物中心に日本の伝統にそった食材で、動物性のものをひかえるメニューですが、今回は半断食という特別な超小食(一日夕飯のみ、玄米食《茶碗一杯で一口200回かむ》とスープ、漬物少々、梅一ヶ)超小飲です。
出されるお野菜はもちろん有機農法、無農薬です。やせる目的ではなく、デトックス(排毒)ができたらいいなあと思い参加しています。
このマクロバイオティックという言葉の中にバイオというものが入っていますが、ワインの中にもビオワインがあり、こだわって作っている方々がいるときいています。
先日、山梨の金井醸造場のワインを飲んでみました。お兄さんやワイン通の人々が“ブーケ”などと言っても「本当?」と半信半疑だったのですが、このワインを一口飲んだときに“グレープフルーツ”のような柑橘系の香りを味わいました。初めて“ブーケ”がわかりうれしくなりました。なるほど、と。
金井さんもビオワインにこだわってがんばっているようですね。
今回はぶどうの作り方も含め、このビオワインについてカンタンに教えて下さいますか?


今回私が試したビオワイン
●甲州万力獅子岩(白ワイン) /金井醸造場
●ドメーヌ・カズ・カノンデュ・マレシセル2006年(赤・1650円) /生協のおすすめビオディミワイン


「何であれ、おいしくなくちゃ!」とワイン好きの友人の誰かがいいました。
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そうそう、ニューズウィーク誌の記事の切抜きをお送りしました。アメリカでのおもしろい実験の結果発表でした。
「『高いワインはおいしい』と思い込んでいる通にはショック」
という見出しでした。
ワインのラベルをかくして味見をさせると安いワインの方がおいしいと思う人が多いのに、値段を見せるとどの人も高いワインほどおいしいと感じてしまうという結果なのでした。
舌も見た目や値段に左右される?人間って不思議です。
素直に正しくワインを味わえる舌をこれからも鍛えていきたいと思います。
~5月の風の中から~
内藤いづみ

 ~いづみさんへ~
返事が遅くなってすみません。仕事がら黄金週間は、たくさんの観光客を迎える関係で休みなくあわただしく過ごしていました。私の住む北国でもやはり桜の便りは早く、ツツジとほぼ同時に咲き始め、それを囲むようにカラフルな芝桜と白いコブシの花が彩りを添えています。例年だと、花の咲く順番を待ちながら春を楽しむのですが、今年は少し違うようです。

さて、今回は「ブドウの作り方を含め、ビオワイン」についての質問ですが、なかなか難しく、また、複雑な問題を含んでいるので、少し回答に時間がかかってしまいました。
 ビオワイン?
まだあまり聞きなれない言葉ですが、化学肥料や化学農薬を使わない有機農法で造られたワインのことで、ビオロジックワインやビオディナミワインとも呼ばれています。
ビオディナミ(フランス語)は、さらに地球と天体の運行の法則を合体させてブドウ栽培管理を目指しています。
日本ではまだ実践しているワイナリーも少ないのですが、そんな中、山梨の金井醸造さんのワインに出会えたことは、大変有意義で貴重な体験になったことだと思います。
実は、金井さんとは1999年11月にミラノで開かれた醸造・栽培機械展訪問ツアーのメンバーとして一緒にイタリアを旅行しました。
その時訪れたワイナリーで有機農法によるワインを紹介されましたが、日本よりもワイン法が進んでいて、自己の有機農法取組宣言や申告だけではなく第3者による検証システムも整備されていました。
 ブドウに限らず作物をつくるのに肥料や農薬を使いますが、肥料としては堆肥のような有機肥料が望ましい訳ですし、農薬はできるだけ使用を少なくするか(減農薬、低農薬)、できれば全く使わない(無農薬)方がよいはずです。
農薬に頼らず健全なブドウを収穫するためには、特に土づくりが重要ですし、さらに病害虫に強い栽培環境を作ってやらなければなりません。
 しかし、日本はヨーロッパのワイン産地と比較すると雨が多く、特に高温多湿の気象条件はブドウに多くの病気を誘発したり、ブドウ樹周りの雑草の生育を盛んにします。このためブドウ生産者は天候を気にしながら防除しなければなりません。
防除には、病気を引き起こすカビやウィルスの殺菌剤や虫除けの殺虫剤、さらに雑草への除草剤散布などがあります。
 日本の中でも北海道などは冷涼で比較的乾燥した天候であるため、本州に比べ農薬の散布回数が少なくエコファーマー※1に認定される農家もあります。
また、一人あたりの管理面積が少なかったり、ブドウの栽培管理を毎日のように専業に行える農家では、殺虫剤を使わずに虫寄せを置いたり、ごく普通に農薬を使わずにブドウを生産しているところもあります。
しかし、その数は少数で多くのブドウ生産者は必要に応じて農薬を使い、健全な果実を作り出しているのです。
 ワインメーカー側は、減農薬、無農薬を望みますが、ブドウ農家は健全なブドウを納入しなければ収入を得られないために、農薬を使いたがる傾向にあります。難しいバランスだと思います。
 ここで注目すべきことは、ワインの品質を向上させるために、ブドウの質を上げようと自然の力を大切にし、土づくり、無農薬、有機農法に努力しているビオディナミの取り組みがあると言うことです。
 これからのブドウ作りは減農薬、有機栽培に向かっていきますが、全てがビオワインになるとは限りません。ワイン造りのひとつのスタイルであり、自然農法の取り組みに存在価値があります。
また、農薬を使っているから全て健康に良くないワインだとは考えないほうが良いと思います。近年ポジティブリスト制度※2の導入もあり、農薬管理に対する意識がたいへん高まっていますし、農薬の使用基準をしっかり守り、適法なワインであることのデータ管理は、当たり前の条件になっています。
でも、ビオディナミによるブドウの栽培管理に、土の働きや星の動きも関係してくるとなると神秘的で、ワインがますますロマンティックなものに思えてきますね!
 ※1.エコファーマー:土づくり、減化学肥料、減化学農薬に取り組む農業者
 ※2.ポジティブリスト制度:基準が設定されていない農薬等が一定量以上含まれる食品の流通を原則禁止する制度
 さて、ブドウの仕立て方として、①平棚仕立て、②垣根仕立て、③棒仕立てがありますが、ここでは、北海道で行われている垣根栽培で育つブドウの四季を一般的な作業内容で紹介します。
【春】
棚直し・・・冬の間に緩んだブドウ棚の針金を張り直し.
誘引・・・前年までに伸びたブドウ樹の支梢を針金に固定.
萌芽・展葉・・・ブドウの芽吹き、新梢の伸び.
土壌改良・・・トラクターで石灰を散布し、酸性土壌を改良する.
防除・・・芽の先端に隠れている害虫の発生を防ぐ.
【夏】
芽欠き・・・込み合っている芽や新梢の葉の付け根から生えているわき芽(副梢)を取り除き、風通し・日当たりをよくして病害虫の発生を軽減.
摘芯・・・栄養分を余計な部分に使わないため、新梢を約1.5mにして先端を切り落とす.
草取り・・・トラクターや刈り払い機、穂鎌による草刈りで、養分の競合を避ける.
防除・・・病気の予防、コガネムシの大量発生を防ぐ.
【秋】
除葉・・・ブドウの房周りの葉を取り除き、風通し・日当たりをよくして病害虫を抑制.
収穫・・・酸度の減少と糖度の上昇のバランスを判断して適熟に収穫.
施肥・・・収穫後、肥料の分解と吸収に時間がかかるため、秋に施す.
【冬】
剪定・・・枝を合理的に配置することによって空間の無駄をなくし、また,成り過ぎを防止し、品質のよい果実の安定収穫を目指す.
ところでニューズウィーク誌の記事は面白い実験の結果を発表していますね!
価格の高いワインは、価格の低いワインよりも美味しいはずだという、人間の先入観によって物事の本質を見抜けなくなってしまった例ですね。ワインのテイスティング(試飲)においてあらかじめ情報を与えておいて、熟成年数、品種特性、醸造方法などの表現力が適正かどうか評価する場合と、情報を全く伏せて行う場合(ブラインドテイスティング)があります。
ブラインドで試飲を行う場合は先入観が入らないので、品質に対して正直な結果を出せると思いますが、少々肩苦しい雰囲気にもなるので、ラベルなどの情報を楽しみながらワインを飲む方をお勧め
します。