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富士山を見て

在宅ホスピスケアといういのちの最期の過ごし方を日本で伝えて十五年。イギリスで学んできたものの、文化が違う、医療体制が違う、と医師たちからは反論された。


夫からは、ラバのように頑固(ラバさんたちに失礼)、自分では能天気と自覚している性格が幸いしてか、一途にささやかな在宅ホスピスケアの実践を続けてこられた。講演活動を通して神戸にも親しい友ができて、毎年行き来している。神戸は大好きな街のひとつ。
080121_01.jpg私は甲府に二十年近く住んでいる。富士山はいつどこで見てもほれぼれする神々しい美しい山だ。もう十年近く経つだろうか。八十代のひとり暮らしの女性がん患者と知り合った。背筋の伸びた、りんとした上品な老婦人で、窓から富士山の見える住まいは端正に整えられていた。
がんが進行して、末期に近くなると娘さんが介護に来てくれて在宅ケアが始まった。往診で病室に入るとふたりの間に他人行儀で気まずい空気がいつも漂っていた。「何故だろう?」と不思議だった。やがて物心が付く前から母娘は別れて暮らしていたことが分かった。今やっとふたりになったのだ、と。ある朝、穏やかな顔で患者さんは私にこう話して下さった。
「今日は気分のいい朝です。夕べは夢で富士山の頂上で、遠くの相手と綱引きをしました。下に雲が見えました。負けそうになると誰か私の後ろで一緒に綱を引いてくれて勝ったんです。振り向くとそれは娘でした。」
何十年間の別離を埋め合わせることは簡単ではない。しかし、私にはその夢は大きな意味があるように感じられて、窓から見える富士山に思わず感謝の挨拶をしたくなった。


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