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いのちを支えて


2012年9月14日 十勝毎日新聞より抜粋

ホスピス・在宅ケア全国大会から
基調講演「いのちの歳時記 在宅ホスピス医の宝箱からいのちの響きとともに」
医師内藤いづみ氏

 夫とともに3人の子供を育てながら、命の最後に寄り添い、みとる仕事をしてきたのは、命の最初も最後も、命に寄り添うという意味で同じと思うから。人はすべて生老病死があり、命の最初と最後はいつも鏡の裏表。私は喜びと苦しみが共存するその命に向き合っている。

 ある肺がんのおじいさんは亡くなる10日前、自分の希望で庭に球根を植えた。私と家族と看護師が付き添う中、彼は一生懸命に球根を丁寧に植え込んだ。彼にとってこれが人生最後の仕事になった。なぜ球根を植えたのか。大人にはなかなか気付けないが、ある子供がこう言った。「球根は未来の切符。このおじいさんは未来のために植えたんだよ」。全てを言い当てていた。

 がん患者が何かをしたいとき、それを妨げるのは何か。体の痛みやだるさ、それとも「そんなことしちやダメ」という介護者の言葉だろうか。
でも、人が未来の切符を探し当てたとき、本来は勇気を持ってサポートすることが必要ではないか。

 いつ何が起こるか分からないターミナルケアでは、勇気や肝を据えることが特に大切だ。その一番上で責任を負うのが医者。在宅ケアやホスピスケアを担っている医者は、患者や周りのスタッフのためにもしっかり後ろ盾になってほしい。

 また、患者の希望をかなえるために欠かせないのが緩和ケア。患者は痛みが緩和され、安心感を得て、やっと自分の心に向き合えるようになる。

勇気持ち患者の希望かなえて

安心して未来の切符を探すためには、痛みの緩和が最初のとっかかりになるからだ。

 この仕事で一番残念なのは、安らかにみとりを果たしても、「ありがとう」と言ってくれる方とは二度と話せなくなること。ただ、一緒にみとり、苦しみを味わった彼らの家族は強力な応援団になっ
てくれる。彼らの「ありがとう」という言葉が最高のご褒美だ。

 人の苦しみを和らげながら寄り添う中、命のエネルギーを燃やし尽くし、安らかな最後を迎える大のさまざまな奇跡を見ることがある。そして今、自分の命や周りの命、自然の命、地球の命まで思いが及ぶようになった。
ホスピスとは、全ての命に向き合うことだ。(杉原尚勝)