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すべての生き物 同じ命 「生命誌」提唱者の中村桂子さん韮崎で語る

生命の歴史を読み取る「生命誌」を提唱する理学博士でJT生命誌研究館長の中村桂子さんは、紛争や環境破壊など世界規模の問題が起きている今、自分や家族の命だけでなく、すべての生き物の命にまで広げて物事を考えることを提案する。

韮崎市内で開かれた「第10回ホスピス学校」(ホスピス・在宅ケア研究会やまなし主催)で、甲府市の在宅ホスピス医・内藤いづみさんとの対談や講演を通し、多様でありながら共通性を持つ命について語った。

紛争やテロ、ヘイトスピーチ…。国内外で、異なる人種や考え方を排除しようとする動きがあるが、「世界中どの人のDNAを調べても、祖先はアフリカに行き着く。人間はたった1種類で、『あいつは違う』『あいつは駄目だ』と言うことは、自分は駄目だと言っているということ」。

125万種類
地球上には現在、分かっているだけで約125万種類の生き物が存在するが、これらすべての生き物の祖先が、38億年前の海の中にいた細胞という。「あらゆる生き物が基本は同じだが、人間は、自分たちだけが特別で他の生き物を支配できると思っている。だから、地球を汚すなど勝手をしすぎている」。

「人間に完璧はありえない」
人が生きるために不可欠な酸素は熱帯雨林がつくり出し、その森の繁栄のために必要な受粉を小さな蜂が支える。多様な生き物がそれぞれの営みをすることで地球は成り立っていて、「人間は考え、助け合える力を持っている。その力を生かせば、他の生き物と一緒に上手に暮らすことができる」。地球上で最も広い範囲に暮らす生き物として、人間の役割を考える。

中村さんが最近気になっていることが、人間に機械のような完璧さを求める社会の傾向。「32億個ものゲノムを持っている以
上、人間に完璧ということはあが必要と呼び掛ける。「命は移りえず、誰もがうまく働かない部分を持っている」。
うまく働かない部分によって、生活に支障が出たり出なかったりするといい、「生物学上、健常と障害という区別はなく、つながっている。障害があってはいけないとしたら、一人として生きられない」。

「白和え」
DNAから見れば、すべての生き物が同じ命。JT生命誌研究館では毎年、一つの言葉を選び掲げていて、今年の言葉は 「和」。
「和らぐ」「和む」などと使わ心るが、選んだ一番の目的は「和える」。
ごまや豆腐、野菜などで作る「白和え」を例に挙げ、「それぞれの味を大事にしながら一緒にして、どの素材も放り出すことなく、新しい味をつくり出している。
私たちが今の社会でやらなければならないことで、駄目だといって放り出さずに、新しい味をつくればいい」。白和えを「和食の傑作』とし、日本人は和える手法が得意だと感じている。

内藤さんはこの発想を「平和につながること」ととらえ、早く結果を出すことや効率が優先される今の時代、子どもたちが命に向き合う機会をつくることろうもので、移ろうからこそ尊いものだということを、家庭で伝えてほしい」。種から芽が出る様子を観察することでも、「命に触れられる」と提案する。

中村さんは、生きているということは時間をゆっくり紡いでいくことで、生きている現実を見て考えることが大切と考える。
「本質を見たときに、すばらしいと思う気持ちを大事にするということを『愛(め)づる』と言う。私の生き方の根底にあるもの」