エッセイ

目で見る、心で見る

2月に出版した絵本『しあわせの13粒』は、たくさんの感想を頂いて、全国各地で幸せの種として着地し、元気に芽を出しているのがわかって嬉しい。


私たちはそれを失うとわかるまで、自分たちに与えられた恵みに気付くことが少ない。この20年、在宅ホスピスケアで出会ったいのち短い患者さんから学んだことを中心に、まつおかさわこさんの切り絵を添えて、幸せになるための13のヒントを載せた。
「僕はこのページが大好き。今日もたくさん笑ったね」と、余命3日の患者さんが奥さんに微笑んだ。
そのページは「1日1回大笑いしよう」
おふたりの笑顔を見て、この絵本を作って良かった、と私が思った瞬間だ。
外来にいらっしゃる70代の女性患者さんが、「ボランティアでこの絵本に点字を付けましょうか?」と提案して下さった時、深く考えもせずお願いした。
後で、「目の見えない人がどうやって絵本を理解するのだろう?」と私にはよくわからなくなった。
10日程して絵本に点字が付けられて届いた。
「この美しい切り絵については、傍にいる人が点字で読む人に万感を込めて描写し伝えるのです。目の不自由な人はこの絵本に触り、ページをめくり、絵を伝えられ、より深い読書となります」
その説明を聞いた後、全盲のピアニスト辻井さんのニュースに触れた。
お母様が幼い頃、手を引いて美術館にも連れて行き、どんな絵なのか、どんな色なのか教えてくれたという、すばらしいお母様。それは、辻井さんの笑顔を見ればわかる。辻井さんは言う。
「僕は母のお陰で、心で見ることができます」
それを今私は心から信じられる。
点字の絵本の希望は多く寄せられたので、ボランティアの力をお借りして数冊作り、今全国に旅に出ている。
「心で見る」そういう世界があることを教えて頂いて、本当に幸せだ。