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人生「最後の友」が要る

2023年11月12日、毎日新聞「滝野隆浩の掃苔記」より

毎日新聞の記事
数か月に一度は生の声を聞きたい、と思う人がいませんか?定期的に会いたい人。
私の場合、甲府市の在宅ホスピス医、内藤いづみ先生がそう。
「文化の日にやるライブ、来ますか」と聞かれ、二つ返事で甲府への小旅行を決めた。

ピアノを弾きながら童話の世界を演じ聴かせる「ヒキモノガタリ」をしてきた女性シンガー・ソングライター、チャンティーさんのライブに、内藤先生は招かれていた。
タイトルは「『いい塩梅』をめぐるいのちの物語」。みとりやホスピスがテーマと聞くとしんみりした話を想像するが、先生が語ると生きる希望に変わっていく。そこにチャンティーさんがあたたかな歌声を添えていた。

4000人以上を見送った内藤先生には忘れられない人がいる。難聴で認知症で末期がんだった「有泉さん」。本人の介護方針を決める最終会議で寝ていたのに、終わった途端に涙をこぼして「あんべーよー(あんばいよく)、お願いします」と言った。家族やスタッフは何とかやってくれるはず。そんな全幅の信頼を表す言葉だった。
先生は最近、講演タイトルにこの言葉をよく使う。「いまはAI(人工知能)で何でも解決するというけど、どう?この不安な世の中で生き延びるために、私は白か黒、生か死ではなくて、この『いい塩梅』が大事だと思っている。それは人間が人間として未来を生き抜く力と知恵です」

会場のスクリーンには、かかわった患者と家族の写真が次々と映される。余命わずかと診断された男性は「ダイコンをつくりたい」と言い張って自宅に帰り、4カ月後、みごとなダイコンを実らせた。ぼろぼろの古家に住む女性は神経性の難病を抱えていた。それでも1人で花を育てて過ごすと言った。会うたびに花をくれた。「お花ばあちゃん」にとって先生は医者じゃない。最後の友だちだった。

家族がいなくても思いどおりに人生を終えられる、友だちがいれば。先生はそう繰り返した。「ひとりぼっちと言っているだけの人は努力が足りないの。最後の友だちを早めにつくっておいてね。きっとその人たちが、あなたを支えてくれるから」

人生のおわりが孤独で、不安で…。AIは助けてくれない。友が要る。友だちがうまく人生の落としどころをみつけてくれる。