エッセイ

旬の力

甲府駅の北口のカフェでいただいた、旬の苺ティラミス。

この一週間ほどの暖かさで、苺も旬の値段でマーケットに出ている。
自分で作るのも楽しいが、こうしてパティシエの手によるスイーツも素敵で嬉しい。
街にはひとが溢れていた。みんな、この三年我慢していた分、うきうきと、にこにこと心躍らせて出歩いている感じだ。
苺ティラミス
冬をやっと超えた重症の高齢患者さんと、外来のベッドサイドで大切な話しをした。
もう数年以上のお付き合いで、ご家族とも一緒によく話し合って来た。
これからが正念場であること。
今は、いったん落ち着いたが、長年の持病である心臓がそろそろ限界であること。
「いつ、止まるかわからない。もちろん苦しくないようにケアしていきます。
見守りながら在宅での日々が続くようにサポートします」、と伝えた。
ご本人は、うんうんとうなづいて答えてくださった。
「分かってはいるけれど、ついにその時が来てしまったんですね」
そんな心の声が聞こえてきた。
どんなに高齢でも、どんなに納得しているといっても、命の本能は、「生きたい!」
という気持ちだと思う。それを忘れてはいけない、たとえリビングウイルをもらっていても。
内藤いづみ
その人らしく、という言葉は重い。現実と折り合いをつけながら、
どう支えていくのか、私も正念場を自覚する。
苺を眺めたら、その正念場の緊張が一瞬緩んだ。そんな、春のひととき。