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地域コミュニティーの中でホスピスケアを展開

Medical Tribune 2011年10月13日号33ページ「第16回日本緩和医療学会」より
病院で死を迎える人が圧倒的に多い中,在宅ホスピスケアへの地道な取り組みが広がりつつある。札幌市で開かれた第16回日本緩和医療学会〔会長=十和田市立中央病院(青森県)・蘆野吉和院長〕の鼎談「コミュニティケアとしてのホスピスケア」(座長=青森慈恵会病院・小枝淳一緩和ケア科総括部長)では,わが国で在宅ホスピスケアの先駆的な取り組みを続けてきた,ケアタウン小平クリニック(東京都)の山崎章郎院長,ふじ内科クリニック(山梨県)の内藤いづみ院長,山口赤十字病院の末永和之副院長が,各地での在宅ケアの経験を基に,地域コミュニティーにおけるホスピスケアの現状と課題について話し合った。


20年で大きく変わった緩和ケア
内藤 わたしがホスピスケアを学び始めた約20年前は,日本でこうした学会もなく,海外で学ぶしかありませんでした。日本の緩和ケアはこの20年で大きく広がったと思います。
末永 わたしは22年前,訪問看護も何もなかった時代に家に帰りたいとおっしゃった患者さんを,病棟の看護師と家に連れて行ったのが在宅ホスピスケアに取り組むきっかけです。
山崎 わたしは外科医を16年,ホスピス医を14年して,現在,在宅専門の診療所を開いて6年になります。
外科医のころ,患者さんに「家に帰りたい」と言われたのが,在宅ホスピスケアを始めるきっかけになりました。入院中はベッドから全く動けなかった人が,家に帰ると自分で歩いて玄関まで迎えに来てくれたこともあり,在宅ホスピスケアの力を日々感じています。
内藤 ここにいる3人は,いろいろな出会いの中で人生の最終章を送る患者さんを支える場所が,病院ではない別の場所にあるのではないかということに気付いたのだと思います。
システムも医療保険もなかったけれど,患者さんのために何が必要かという自分の心の声に動かされた結果,ここにたどり着きました。
最低5年の臨床経験と幅広い人間力が必要

内藤 緩和ケアを専門にしたいと考える若者が増えてきました。非常にうれしいことですが,わたしは実習に来る学生には,「最初から緩和医療に飛び込むな」と言っています。出来上がったシステムの中で学んでいくのではなく,自分で医療の光と闇をしっかりと学び,感じた上で選択
することが大切だと思います。
山崎 わたしはホスピスに研修に来る人に「日常の臨床経験を最低5年くらいは積んできて,今の医療の現場で何が問題なのかをきちんと見てこないといけない」と伝えています。
また,全身の状態を診ていくためには,それくらいの臨床経験がないとできないのではないかと思います。
末永 基本は目の前の患者さんに対して何が最良の方法かがきちんと判断できることですから,やはり4?5年はかかるでしょうね。がんの患者さんが圧倒的に多いので,がんの診断,治療も含め,内科的な診断学は身に付けておいてほしいですし,外科的な技術もあると安心です。
山崎 患者さんの人生をみとるという意味では人間力も必要です。それはどうしたら身に付けられますか。
末永 医療の世界だけにどっぷり漬かっていたらいけないと思いますね。
わたしは若いころから,農業家,教員,弁護士,主婦などいろいろな職種の人との勉強会を1?2カ月に1回続けています。人と人との関係性の中から,人としてわたしたちに求められているものは何かを考える機会をつくることは大切です。
内藤 わたしもやはりいろいろな職種の人と付き合うことを大切にしています。わたしはプラネタリウムで星やオーロラを眺める会に,患者会の方を呼んだり市民講座を開いたりしていますが,そこでわたしたちの命は137億年の星のかけらだということを学びました。そのようなことに思いをはせたら,患者さんと向かい合ったときに肝が据わるのではないかと思ったりします。
山崎 わたしは緩和ケア医になるためにどのような勉強をしたらいいかと学生に聞かれたとき,「医者になったら,ずっと仕事が続くわけだから1年くらい落第して,その間にいろいろな人たちと出会うのもいいんじゃない」と言っています。わたしは2年浪人して1年落第しましたが,それが良かったと思っていまして(笑)。
やはり視野を広げるためには,同じ場所にい続けることがいいとはいえない気がします。船で南極に行ったとき,キュブラーロスの本に出会ったのが,この世界に入るきっかけにもなりました。
年齢制限なしで在宅を支援
山崎 山口県では,具体的にどのような取り組みをしていますか。
末永 山口県では介護保険制度がスタートした当時から行政と一緒になって,在宅緩和ケア支援事業を地域ケアの中に全部組み込んで,専門部会を立ち上げてきました。その中での一番の目玉は,年齢制限を設けないということです。患者さんが家に戻りたいと希望すれば,年齢にかかわらず,すぐに相談に乗って即実行することになっています。だいたい年間30人くらいが利用していて,2カ月に1度は医療,福祉,看護の各分野から70?80人が集まって事例発表を行っています。
 食道がんの手術後,再発して3カ月大学病院に入院していたものの痛みがコントロールできず,寝たきりで中心静脈栄養(IVH)カテーテルを挿入していた患者さんがいました。
「家に帰りたい」と言うので,すぐに持続皮下注射をして在宅に切り替えたところ,3日後には起き上がっておでんが食べられた。そして息子さんの結婚式に歩いて出席し,故郷にお墓参りに行くこともできたのです。
 わたしは,患者さんの全人生をみとれる場所に帰してあげるというスタンスで,それができるのは医療従事者ではなく,家族や友人,コミュニティーの人たちだと思っています。
地域の中でチームケアを展開
山崎 わたしはホスピス医としてホスピスケアの大切さを痛感し,ホスピスケアのチームが地域の中で展開していく仕組みを考えました。3階建ての建物の1階に,在宅を支える24時間の訪問看護ステーションと,医療ニーズが高くて一般のデイサービスが受けられない方たちに対するデイサービス,わたしどもが運営する在宅医療支援診療所,それに訪問介護ステーション,居宅介護支援事業所があります。1カ所に集中することによってチームケアが非常にスムーズにできるようになっています。
建物の2?3階は高齢や障害のため通常のアパートでは住みにくい方たちが入居するアパートです。ここが地域の中でホスピスケアのチームケアを展開していくための拠点となっています。ボランティアの約2割は在宅でみとった方のご遺族です。地域の中でホスピスケアを展開していくと,いろいろな人たちと新たな縁を結ぶことが可能になります。
在宅だからこそできたみとり
山崎 つい最近,40歳代の娘を家でみとったお母さんが,今度は自分ががんになってしまって,もう治療を選ばないと家に戻ってきました。「わたしは自分の娘をみとったときに,娘からいろいろなものを教えてもらったから,これからの時間は家族に自分が亡くなっていくプロセスを見せたい」と言うのです。1人の人が人生を終えていくとき,本当に多くのものを周囲の人たちに残してくれる。
それは在宅で24時間,同じ空間の中にいてこそ体験できることだと思います。
内藤 わたしのところでも在宅ならではのみとりのエピソードはたくさんあります。あるとき,膵臓がんで腸閉塞を起こしかけて食べられなくなった患者さんが,「うまい天ぷらが食べたい」というんです。この望みをかなえなければと思い,そば屋を営む友人に「命の最後に,これで死んでもいいっていう天ぷらを揚げて」と頼みました。わたしたちがその人を抱えるようにして連れて行くと,患者さんは「うまい」といって天ぷらをたいらげ,食事が終わると,「今日はおれがおごるよ」と言うのです。本当に死期の近い顔色の悪い患者さんを,命の平等な間柄だと思いました。
「家族に迷惑をかけたくない」の本音とは?
山崎 患者さんに在宅ケアの良さを伝えても,やはり迷惑をかけるという話が1回は出てきます。でも,「本音は? 」と聞くと,「家にいたい」と言うんですよね。
内藤 看護学生約100人に,自分が末期がんになったとき,どこで過ごしたいか聞いたら,ほとんどが家族に迷惑をかけるから家では亡くなれないと答えました。甘えられない家族関係なのだと思いました。
山崎 迷惑をかけるといっても,患者さんには,そんなにたくさん時間があるわけではないんですよ。
末永 わたしは娘さんや息子さんに「親あればこその自分の存在だよ」と言います。その親が最大の苦悩に遭うときに,命をどう終えていくかを受け止めることで,あなたたちがこれからどう生きていくかを考えることができるのだと。
不安を取り除き,背中を押す
内藤 みんなみとりの仕方が分からないから,何が起こるか不安なんです。やってあげたい気持ちが多少あっても,できないという気持ちがとても強いと思います。だから,訪問看護師さんやわたしたちが,「大丈夫,できるよ。わたしたちがちゃんと教えてあげるから」とみとりの後押しをしてあげることが必要だと思うんです。
山崎 「今一番心配で不安なことは何か」を丁寧に聞いていくと,たいていは解決できることなんですね。だから,前もって家族のいろいろな不安を聞いて,「これだったらこうできますよ」と伝えていくと,最初は「とても無理」といっていた人が,いつのまにか「これならできる」,そして「やってよかった」という達成感を持つことができると思います。
 ぜひ,皆さんも患者さんが安心して最期を迎えられるように,できる限り多くを学び,経験を積んで,地域に出て行ってほしいと思います。


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