ホスピス記事

ふたりからコミュニティ

皆様、桜の花もいつものような気持ちでは愛でられない今年の春です。
私は甲府市貢川の土手の桜を見てきました。

風は少し冷たかったですが、色々な色のグラデーションが綺麗で心がポッと明るくなり、ほっとしました。
綺麗!嬉しい!素敵!そんな声が自然にでました。


このレジメは、長野の地域医療の学会で話す予定のものでしたが、中止になりそうです。
今回の世界情勢が予想できない頃、書きました。
仲間、友人との絆を信じて、皆さん乗り切ってまいりましょう。
そして、未来はまた、新しい社会作りが必ず、始まります。

ふたりからコミュニティ ~今を生き抜くために絆を見つめ直す~
内藤いづみ

シシリー・ソンダース医師に学んだホスピスケア4つの痛み
在宅で、いのちの最終章を送る方々を支える活動を30年以上してきました。私は甲府市内に小さな診療所を持っています。そこで看護師さんや様々な方々とチームを組んで患者さんのお家に行って、その方々の声に耳を傾けケアしています。半分位の方ががん患者さんで、半分位ががんではなく、別の難しい病気や老衰になった高齢の方々です。

私がイギリスで学んだホスピスケア。人間は何で成り立っているか。私たちには体がある。体があって、そして感じる心があって、社会との繋がりがあり、そして最後に自分たちではどうにもできない大いなる存在との繋がりを感じる。スピリチュアルなもの。この4つで私たちは成り立っているとイギリスで学びました。そして、がんになっても大きな課題や試練に向かい合った時に、私のホスピスの先生、シシリー・ソンダースというホスピスケアの創始者の女医さんはこう言いました。

「がんになるってことはとても辛いことで、とてもショックなこと。その時に、みんなは体の痛みだけを心配するけれど、もし、体の痛みを緩和したら、次にくるのが心の痛み、社会的な痛み、そしてスピリチュアルな痛み。この4つの痛みに、トータルに向かい合うことが私たちの使命です」
私はその中の「社会的な痛み」とは何だろうと、いつも思ってきました。「社会的な痛み」というのは、社会人として、地域の仲間として存在することの価値を失う苦しみです。この「社会的な痛みのケア」とは、実は今の日本に大事な視点だと思うんです。

社会活動というのは非常に大事なことなんです。そして、コミュニティというのはふたりからで大丈夫だって確信しています。皆さんの人生の側にいる人、その人が実は皆さんのコミュニティの本当に重要な人物です。そのことについて、いくつかのエピソードを当日はお伝えしたいと思います。
たくさんのいのちに最期まで付き合わせて頂いてわかったことがあります。亡くなる時に残る能力は周りの温かさを感じる力。聞く耳と嗅ぐ能力と味わう力だと思います。それを尊重するケアをしてあげて下さい。
「ああ幸せな人生だった」と口に出さなくても、その思いを抱いて旅立てたらこんな幸せはないのです。

もし、皆さんが誰かに「私の人生最後の友達があなた」って言われたら、怖がらずに「わかった」と言ってあげて下さい。大したことをしなくていい。そこに居てくれて、一日一回お茶飲むだけでもいい。皆さんが誰かの最後の友人になれた時、あなたたちは、たったふたりのコミュニティを作ったことになるのです。
その仲間に医療者も加われたら本当に意味があります。そして、3人になればそのケアのトライアングル(三角形)は本当に強いものになります。小さなコミュニティ。私はそれが大切な一歩だと信じています。