開催報告

栃木にて

大学の同窓生の趙先生とご縁ができた昨今。
趙先生は栃木県真岡市で20年以上前から在宅ホスピスケアに取り組んでいる。
高名な太田先生と栃木の在宅ネットワークの会を運営している。
今回はその総会での記念公演。


趙先生からの希望で古屋ピアニストとの共演。
話と音楽の共演は実は簡単なことではなく、この20年私は師匠の永六輔さんから厳しく!教えられ鍛えられてきた。
時にはライブの舞台上で。演出家の気配り、監督としてのバランス。プログラムのデザイン。
出演者のコラボの妙など。同時に私は舞台上でのプレイヤーという心構えも。
なんと貴重な教えをいただいたことか。
私は在宅ホスピス実践家であるのと同時に永六輔門下のプロの話し手でもある、と勝手に自負している。
今回も主催者に色々無理なお願いをしたかと思う。お許しいただきたい。

当日は北海道美瑛の映像を撮影者の協力で写していただくという贅沢な公演となった。
全てが出会いと、一期一会の命の輝き!
古屋ピアニストのお父さんは私が甲府で働き始めた時に初めて関わった進行癌の患者さんだった。
古屋さんは高校生、40歳前の私。40代で亡くなるお父さんの最期にみんなで寄り添った。
安らかな最期だった。
そしてプロとして活躍する彼女との今回の公演。
私も16歳で父を亡くした。古屋さんの音の響きを聴きながら、涙が流れた。
趙先生もお父さんを見送っている。
父たちへの鎮魂歌。
皆様との出会いに感謝です。


この写真は新潟の斎藤先生。応援に駆けつけてくださった。

参加者「老・病・死を考える会世話人 尾﨑 雄さん」から頂いた感想文
在宅ケアに関心のあるみなさん
昨日は自治医大で開催された第22回在宅ケアネットワーク栃木(総会&シンポジウム)に参加しました。在宅医療や在宅ホスピスに関する各種の催しは可能な限り参加してきましたが、昨日は最も感動に満ちた催しの一つでした。

ひとつは病院勤務だった看護師がひとりでゼロから訪問看護ステーションを立ち上げることは極めて困難であるという実態を生の声が聴けたこと。
言い古されてきたことですが、在宅ケア・在宅ホスピスに取り組む訪問看護師は同じ分野で働く介護・福祉専門職にとって「怖い存在」であること。また、駆け出しのステーションは地域包括支援センターにとってもお荷物的な存在であるらしいこと。ただ、病棟をとびだして独立し、「訪問/在宅」という現代のフロンティアで悪戦苦闘する看護師から生の声を聴けたのは貴重な収穫でした。

また、太田秀樹先生と共にこのネットワークを立ち上げた趙達来先生の大会長講演、「親を看取る、自宅で看取る、平穏死で逝く在宅医療」は重いメッセージでした。栃木県の真岡市でコツコツと在宅医療ホスピスに取り組んできた末に得た趙先生の死生観は一般市民の心に沁みとおるものでしたが、それにもまして印象的だったのは趙先生自身が自らの父親を看取ったときの赤裸々な報告でした。

趙先生の父親は貧困から逃れるため韓国から日本海を越えて来日した人物。趙先生は自慢の息子だったそうですが、その息子が父親のために良かれと思って勧めた在宅医療をことごとく拒否したそうです。父子の間にどんな葛藤があったのか、趙先生自身は何も語りませんでしたが、もしかしたら、在宅での看取りには技術論や制度論では片付かない大事な何かがあるということでしょうか。

「在宅看取りは、うまくいっても後悔は残る」。演者のどなたか、そう漏らしていましたが、私自身は趙先生の葛藤から、在宅医療の草分けのひとり早川一光先生が、自分自身が在宅医療を受けるようになったとき、「こんな筈じゃなかった」とNHKのTVカメラの前で“公言”し、それが全国に発信されたことを思い出した次第です。

そうした「在宅」の重さを払拭したのは、講演+ピアノ演奏「いのちに囲まれて生きていく」。
講師は甲府市の在宅ホスピス医の内藤いづみ先生。
夫に訪問診療のハンドルを持たせて難路を超えて過疎村に通い、孫も含めた家族全員を支えながら老いた農夫を看取った一部始終は明るさに満ちていました。その農夫が遺したお孫さんは内藤先生の助手としてホスピス講演に同行することもあるそうです。

また、在宅ホスピスの良さを“満喫”して看取られた別の男性の娘さんはピアニストになり、内藤先生はそのピアニストの演奏をバックに講演しました。北海道・美瑛の四季の写真が舞台いっぱいに上映され、内藤先生の語りと遺族のピアノ演奏と雄大で美しい自然の風景が見事なコラボレーションとなって、参加者を魅了しました。北海道の景観を撮ったのは内藤先生と親しい薬剤師。大阪からの参加者です。

栃木県のローカルネットワークの集まりにもかかわらず、その薬剤師のほかに九州からニノ坂保喜先生、新潟からは斎藤忠雄先生と他の都府県からも在宅分野のキイパースンが聴衆として参加していました。このように分かりやすく、重く、かつ楽しい医療イベントが全国の市民を対象に各地で開催されるようになれば、日本の医療改革はもう少し捗るのではないでしょうか。

(老・病・死を考える会世話人 尾﨑 雄さんより)