エッセイ

北の旅日記 2日目

111020_01.jpg朝早く出発し、長距離を車で様似(さまに)町(襟裳岬の近く)へ向かう。道南の海沿いは競走馬サラブレッドの飼育で有名な地域。親子岩のある海の景色に目を奪われる。会場は潮見台にある法敬寺。寺の奥様とばらのお家の高橋さんとのご縁。
門徒の女衆たちが朝早くから私たちのためのお昼ご飯を準備して下さった。初めて食べるタラの刺身。コリコリとして甘味のあるつぶ貝。三平汁。私たち山の民にはどれも驚くほど新鮮でほっぺが落ちるほど美味しい。


講演会場はご本尊のある静かで厳かな本堂。横にはお骨が安置されていた。
そこに2枚の鮮やかで縁起のよい大きな大漁旗が飾られていた。ひとつは宝船の絵柄。金銀財宝を乗せ、帆を張らませて海を前進している。
御住職の藤條さんが説明して下さった。
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私は何ヶ月か前、朝日新聞の一面に大きな大漁旗の写真を発見した。読んでみるとそれは様似町からのものだった。震災で全てを流されてしまった三陸の“よさこい祭り”の応援のために寄付された旗のひとつだった。心意気のこもった素晴らしい旗だったから、私はすぐに藤篠さんに連絡したのだ。「見た?」と。ところが地元では気付かれていなかった。
私の連絡の後、皆で見たということだった。それで終わる話しだと思ったら、当日、その旗の網元の山中さんが「都合が悪くて講演には行けないから、せめてこの旗を先生たちに見てもらってくれ」と届けて下さったらしい。一心丸という漁船の心意気。
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私たちが頂いたお刺身も一心丸が獲ってくれたものだった。その宝船の絵柄に私は心を奪われた。
日本人の心の核に届く迫力。お寺とホスピスと宝船。生と死の話し。
3ヶ月前、私の講演を聞いた17歳の高校生がこう答えてくれたことを思い出した。彼女はこう言った。
「先生の話がよくわかりました。ホスピスケアは死を別れの暗い悲しいケアで包むのではなく、限られたいのちだからこそ本人が自分の持っている宝物に気付くための喜びのケアなんですね」と。
「そうなんだ!そうなんだ!」と私は飛び上がりたくなった。
「この宝船こそ私たちの目指すホスピスケアのシンボルなんです」とやや興奮して話し出すと、集まったお年寄りたちは少しポカーンとしていた。
「すみません。順を追って説明します。皆自分の持っている宝物に気付かず亡くなってはいけません」
人口5500人の様似町で100人の方々が集まって下さった。
ホスピスケアと宝船。このテーマは私にとってしばらく続きそうだ。とても嬉しい。
終了後、襟裳岬へ移動。
夕陽(サンセット)に間に合う。強風も気持ち良い。帯広へ出発。途中、エゾ鹿のファミリーに出会う。
私の叔父ファミリーが帯広の近くに住んでいる。
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夕飯はいとこ夫妻に招かれて、帯広にて十勝ワインとディナーを堪能。豚丼が有名。
帯広は日本でただひとつのモール温泉(太古の植物堆積物を通ってできた水)があり、入ると全身ツルツルする。