往復書簡

井上ウィマラ・内藤いづみ往復書簡Vol.2(復)


その4 悲しむ力と育む力
本当に暑い夏でした。
一番の暑さのお盆の頃、私は84歳の女性のいのちを、向こう岸へ送り届ける仕事をしていました。
こちらの世界と向こうの世界を隔 てる川のイメージは、実は東洋だけに限られた話ではないのです。
イギリスで現代のホスピスの始まりとされる、セントクリストファーホスピスを20年前に訪れた時に、そこに掲げられたシンボルマークを見て驚いた思い出があります。
聖人クリストファーが船頭のように、渡し舟を漕いでいる形でした。
「なるほど。」と今になると改めて深く肯くことが出来ます。
私の友人の詩人、里 みち子さんの詩を紹介します。


わたし舟
岸のほとりで
   佇むひとが
対岸(向こう)いくのに
   橋がない
わたしでよければ
   わたし舟
ちょいと送って
   いきましょか
岸に着いたら
   名も告げず
ただのひとこと
   「おげんきで」


前回は、スピリチュアルケアについて分かりやすい説明をありがとうございました。
スピリチュアルという言葉は、この頃日本でよく耳にする流行り言葉のようですが、各人それぞれのイメージで分かった気になっている言葉かもしれません。
見えない世界、科学で説明出来ない世界へ引かれる若者も増えてきています。
医療でも、ホスピスケアの啓蒙が進むのにつれて、スピリチュアルケアとして重要な分野になってきたのは、とても嬉しいです。
ウィマラさんと交流を持つようになり、人と関わっていくこと、つまりコミュニケーションの方法などを色々と学ばさせて頂いて有難いです。
実は、病む人、苦しむ人に、どんな気持ちでどう向かい合い、どう分かり合うのかという基本の姿勢と方法を、日本の医師たちは医療教育で十分に学んでいないのでは、と私は感じています。
がんの「告知」も含めて、人生の危機に立つ患者さんたちにとって、私たちは善き伴走者になっているのかと反省します。
先日、20歳のかわいい女子医学生が私のところへ東京から見学に来ました。
「私ではなく、人生の危機を乗り越えながら、ここに通院している患者さん方の傍にいき、お気持ちを伺ってごらんなさい。」
患者さん方は、それはオープンにたくさんのことを彼女にしゃべって下さいました。
私の小さいクリニックは、外来に進行がん患者さんが集まり、少しデイホスピスのような形になっています。皆さん前向きです。
ホスピスケアの啓蒙を20年続けて変わったこと、それは「人生を歩みぬく」と決心した患者さん方のポジティブな姿勢。そして、ホスピスケアを「お手伝いします!」と献身してくれる力量ある看護師さんたちが、各地で育ったことです。
ある患者さんは彼女にこう言ったそうです。
「今までお医者さんに、上手く気持ちが通じなかった。心の奥の苦しみに気づいてもらえなかった。でも女医さんの方が、分かってくれそうな気がする。なぜなら、家庭を持っていのちを育て、きっと男の先生よりたくさんのことをそこで学ぶはずだから―。」 
家庭より、専門職で成果を上げることを選んだキャリア志向の先輩たちに囲まれていた彼女は、その言葉にはっとしたそうです。彼女がどんな医師に育つか楽しみです。
「育む力」それはたくさんの時間を忍耐強くかけて生まれる力。いのちのケアは急がない。まさしく、スローライフの代表です。
赤ちゃんの頃、幼児の頃、そんな小さな頃の親との関わり方が人生に大きな影響を与えることをウィマラさんは、今まで私に教えて下さいましたね。
そこで起きた傷(トラウマ)はどう癒されていくのでしょうか?     


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