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レイチェル・カーソンについてお話を(復)

川村まさみ様との往復書簡、第一回目の復路です。

レーチェル・カーソンという女性 往復書簡 その1(返事)

川村さんへ

おたより嬉しかったです。ありがとう。

先日の雪に閉じ込められて、お部屋で書簡をしたためている姿を想像したら、あなたの静かな明るいエネルギーが私まで伝わってきました。

私は今朝4時半に起きて、大学受験に向かう子供を送り出しました。そう!もう2人目の子が18歳です。甲府盆地の道端には残雪が残り、頬に当たる風の冷たいこと。今は朝焼けを見ながら、ミルクティーを飲んでいます。その静けさ。自分だけの自由な時間。こんなにのんびりしたのは、何だか久し振りな気がします。心の中の妖精が目を覚ましたような感じです。自然の中の自分という存在を感じるためにも、静寂さが必要ですね。大人の日常はDoing(何かをすること)で忙しすぎます。Being(そこにいる)ということを、もっと思い出したいです。

080216_007.JPG「センス オブ ワンダー」で読むように、小さな甥っ子ロジャーの手を引き、大好きなメイン州の森と海辺を散歩しながら、自然の発する穏やかで、微かな音や光に触れるレーチェルの姿を思い浮かべたりしています。 

「センス オブ ワンダー」でレーチェルはこう言っています。
『子供たちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。残念なことに、私たちの多くは大人になる前に澄み切った洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます。

もしも私が、すべての子供の成長を見守る善良な妖精に話しかける力を持っているとしたら、世界中の子供に、生涯消えることのない「センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性」を授けてほしいと頼むでしょう。

この感性は、やがて大人になるとやってくる倦怠と幻滅、私たちが自然という力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、変わらぬ解毒剤になるのです。』
21世紀の大人たちは、子供たちの感性をしっかりと守る人になっているかは、甚だ心もとないです。自然に触れず、遠くに居る友人とさえ、テレビゲームで戦えるこの頃の子供たちのことがとても心配になります。

しばらくお会いしていないのに、レーチェル・カーソンを語る、という私の大胆で強引なお願いを引き受けて下さってありがとう。

川村さんとは10年以上前に、共通の友人の縁で知り合いましたね。優秀ですてきなセンスをお持ちの川村さんを、その友人は絶賛しており(本当にそうです!)、何とか3人で「ホスピス」関係の本を作りたいと、その頃何度も新宿辺りで作戦会議を開いたことを覚えていますか?楽しかったですね。10年前には「ホスピス」はまだあまりに重いテーマで、結局その時は本を誕生させることができませんでした。「死」についての本なんて、誰が買うの?という空気が濃厚でした。今、この分野は食傷ぎみと思えるほど、たくさんの本が出版されています。ほんの10年で、こんなに世の中は変わるのですね。

80年代に私は英国でのホスピス運動をみてきた感動を胸に、30代の大きなエネルギーを山梨県でのホスピス運動に捧げてきました。

「ホスピス?ホステスさん?」

という一般の方の感想から始まり、

「先生はクリスチャンですか?だからこういうことをするのですか?」

という問いが続き、私が

「クリスチャンの友人は多いですが、私の家は神道なんです。」

と答えると、怪訝な顔をいつもされました。医師たちからは

「病気を治さないなんて、ホスピスケアは医学ではない。患者を絶望させるだけだ。まあ、たまには私の末期がん患者さんのために、あなたを呼んでもいいよ。手を握って、カウンセリングしてあげてよ。それがホスピスケアでしょ?」

楽な仕事だと思われていることに対して

「いや、違う。まず身体の痛みを緩和することに集中し、そして心、社会、魂と続くトータルぺインへの関わりなんです。」

と、力説してきました。諏訪中央病院の院長だった鎌田実先生は、真っ直ぐに私の言うことを受け止めて応援してくれた、数少ない医師のひとりです。振り返ってみると、「いのちは希望」というメッセージを私はずっと握りしめていました。多くの患者さんと出会い、20年経った今では、改めて確かにそうだと思えるのです。

こんなことを長々と書いたのも、私のようなささやかな人間でも、権威や組織に所属せず、その時代には少し新しいことを社会に発信しようとすると、「生意気だ。」などとバッシングに近い圧力を何度も体験したからです。しかし、生病老死、いのち、生と死、それは、人権、宗教、性別、年齢を越えて私たちにとって、とても大切なことだと信じて揺るがなかったのです。頑固に私は行動を続けました。

日本の社会も変わり、今は真剣に生と死の医学を受け止めて考えて下さる人が増えました。だから、私のささやかな反骨の体験から想像してみても、「沈黙の春」という本で、真実ではあるけれど、利益に関連する多くの企業や団体にとって耳痛い内容の本を出版し、発言し続けたレーチェルの勇気と体力と知性に脱帽するしかないのです。今こそ世界中、環境問題は地球の未来を握る大問題となっていますけれど、当時の人たちにとっては驚きの発言だったことでしょう。環境破壊により、鳥の鳴かない春が来るかもしれないなんて、全く想像もできなかったはずです。

レーチェルは派手な人ではありません。しかし、凛とした美しい女性ですね。伝記を読むと、一生独身で、家計を支えながら自分の病と戦い、必死で働き、あの本を書き上げた様子がよく分かります。あなたの言うように、何が彼女の信念をそこまで支えたのか・・・・私もふと不思議に思える時があります。

080219_008.jpg実は私には尊敬する5人の女性がいます。マザー・テレサ、エリザベス・キュブラー・ロス、シシリー・ソンダース、パールバック、そしてレーチェル・カーソン。それぞれの伝記を読むとよく分かるのですが、どの女性も自分の人生の抱えきれないほどの悲しみを背負いながら、でも真っすぐに、一生頑固に、信念を曲げず発信し、行動してきました。どんな権威にも、脅しにも屈しない、媚びない生き方に通じるもの。

個人的な欲から離れた、近づきがたいほど凛々しい姿。5人の類まれな知性を持つ女性が行き着いたところ、それは彼女たちが行き着いたいのちのエネルギーが教えてくれたこと、いのちは繋がっている、いのちは欲張らない、いのちは未来への希望。そして揺るぎない“愛”の力の大きさではないでしょうか?

私の在宅ホスピスケアの仕事は、死にゆく方々との苦悩に向かい合い、無事、向こう岸へ送り届ける、渡し舟のような役目です。私の仕事柄か、勘違いして、私のことを神性?な存在だと思い込み、一方的に尊敬して下さる方々も時々います。080219_009.jpg

とんでもない!

育ち盛りの3人の子供の子育てに日々悩み、従業員には少しでも多くの給料をあげたい、と経営手腕の乏しさに眉間のしわを深くし、50歳を過ぎたら急に進行するメタボの体にガックリする、本当に拙い、小さな存在にすぎないのです。

しかし、その小さな存在の私が、終わりゆくいのちの神秘に触れ、いのちの希望を得て、頑固にひたすら“怖くないよ、大丈夫です”と死にゆく方々のトータルペインに何とか寄り添っているのです。

あの「レーチェル」にまつわるお話を、次回はもう少し教えて下さいますか?私はモナーク蝶の大群を見ているシーンが、心に深く刻まれています。







本文中の写真で紹介している本(上から順に)
・センス・オブ・ワンダー (新潮社) レイチェル・L. カーソン (著)
・人生は廻る輪のように (角川書店) エリザベス キューブラー・ロス (著)
・シシリー・ソンダース?ホスピス運動の創始者 (日本看護協会出版会)シャーリー・ドゥブレイ (著)

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往復書簡

2011年8月6日 お盆を前に想う
久しぶりのお便り― 米沢 慧さんへ 内藤いづみより
対談 『往復書簡 いのちのレッスン』をめぐって
往復書簡(米沢慧様)Vol.9 復
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