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自分らしさを貫く

独り暮らしの90歳近い女性と10年近く関わらせて頂いています。都会に住む息子さんは「そろそろ一緒に暮らそう」、とずっと誘っていますが、なかなか踏み切れません。「長年住み慣れた町から離れたくないんです。足腰が丈夫なので、当分このままでもいいかなと思ったり、頭の中がガラン、ガランと音を立てるように混乱して、物忘れがひどく探し物ばかりするときは、もうだめか、と心が揺れます。どうしたらいいのでしょう?」

 すぐ直前の記憶を失ってしまうことを短期記憶障害といい、認知症の病状の一つです。10年前のことはくつきりと細部まで思い出せるのに、10分前のことは忘れてしまう。かぎをかけて外へ出た途端、何をしに出たのか思い出せないことは、本人にとってかなり焦る出来事です。
急に変になるのではなく、症状は除々に進行します。ジグソーパズルのピースが一つ一つ欠けていくような感じかもしれません。不安を抱えながらも、残った能力でつじつまの合う話はできますし、感動する心も充分働きます。
 私は在宅ホスピスケアと共に、最近はこういうご老人たちの見守り役を引き受ける機会も増えました。どなたも「周りに迷惑をかけたくないが「心身の衰えに、どうつきあったらいいのかわからない。自分らしさは、どこまで貫けるのか?」と問いてきます。
 PPK(ピンピンコロリ)は大往生の一つのあこがれかもしれませんが、事情はそれぞれで、簡単にそうはいきません。「老いのいのち」の現実は厳しい。「折り合いがつけられる、なだらかな着地点を一緒に見つけましょう」と伝えたとき、この女性はにっこりと微笑み、私の手を握り締めてくれました。この方は長いこと短歌を作っていました。

白鳥の きはだつ白さよ
濠の面の 落葉分けつつ
一羽の泳ぐ

 自分自身をごまかさず色々な力を借りてじっくりと向かい合ってこそ、人生の最終章が歩み抜けられるのだと皆さんから教えてもらう毎日です。
そうそう、私からは、失礼して俳句で返歌を。

息白く スノウドロップに
あいさつす

毎日が発見3月号より抜粋

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