エッセイ

春の食卓


2月が暖かかった分、3月の冷え込みは体にこたえて体調を崩す人が多かった。それでも春は訪れた。
80歳近いYさんは、長年連れ添ったご主人をお家で看取った後も、頑張って自立して暮らしていらっしゃる。毎日畑に出て、野菜の面倒を見ることも暮らしの励みになっているらしい。
無農薬で美味しい見事な野菜を育てている。クリスマス前に頂いた人参のかわいらしさと美味しさは、ローストチキンに匹敵するほどだった。
毎月1回ニコニコしながら、野菜を外来に届けて下さるのだ。
「先生、本当にこんなもので迷惑じゃありませんか?」
Yさんはいつもひたすら謙虚なマナーで、私に野菜を下さる。
もちろん私はとても嬉しい。
冬の寒さを越えたほうれん草。
黄色の花を付けた菜の花。
初めて採れたウド。
香り立つパセリ。
何にも仕事の入っていない週末、台所でこのお野菜たちを手に取った。
Yさんの野菜への愛情がしみじみと伝わってきた。
たくさん頂いたほうれん草は、大鍋でサッと茹でてから少しだけバター炒めにしてみた。
半分は冷凍、残りはミキサーにかけてペースト状にしてから、シンプルなポタージュスープに。
生クリームを少し加え、塩はこだわってアドリア海産を。
出来上がったスープは、深いきれいな緑色になった。娘は
「青虫になりそう!甘くてと~ても美味しい!」
と声を上げながら、たくさん頂いた。冬を越えたほうれん草は、ほんのり甘い。
ウドは、さわやかな香りと共に苦味が食欲をそそる、二杯酢サラダに。菜の花は、テーブルフラワーのように春のエネルギーを食卓に添えた。
Yさんのお陰で、我が家の食卓に春が来て、体中を春の風が通り抜けた。