エッセイ

母なるもの


母性とは、ひょっとして子供を産む、産まないに関わらないものではないか、とこの頃思ったりする。
私が今まで感じた大きな母性なる存在は、マザー・テレサという方だ。彼女はその一生を神に捧げ、独身だったけれど、世界中の人のマザーだった。大胆に、ストレートに、信念のまま行動し、時には厳しく、しかしどんな相手をも受け入れるその笑顔は、氷をも解かすエネルギーに溢れていた。
母性は逞しい。
母性はめげない。
母性はいのちの本物の力を知っている。
森のイスキアを青森の岩木山の麓に作って、心と身体を病む人を受け入れている佐藤初女さんも、大きなお母さんのひとりだ。昨年の12月にお会いした時に、お年は取ったけれど、そのお母さんパワーに更に磨きが掛かったことを教えて頂いた。心苦しむ人が心を開き、「お腹がすいた」と感じた時に差し出された手作りのおむすびは、表現しがたい味わいがあるのだろう。それはきっと体の栄養ではなく、心と魂にしみ込む栄養というような・・・。
『おむすびの祈り』(集英社文庫)の巻頭に、こう書いてある。
耐えがたきを耐え
忍びがたきを忍び
許されざるを許し
温かい太陽を思わせるやさしい言葉
冬の厳しい寒さにも値する愛情ある助言
慈しみの雨のように涙を流して共感する
なごやかな風を思わせる雰囲気
それが母の心
昨日(2/14)、諏訪中央病院の鎌田 実先生が私を呼んで下さって、ほろよい講演会を茅野市で催した。その中で、鎌田先生もコメントを下さった。
ある施設で、知恵遅れの子が父と母の絵を画用紙に描いた。一生懸命描いた絵。お父さんらしき絵を先生が「これは?」と指したら、その子は「おとこ!」と答えた。お母さんらしき絵を指したら、にっこり笑って「大好き!」と答えたそうだ。鎌田先生も大笑いしながら話して下さった。
「お母さんってすごいね。お母さんは得だね。父親はただの(おとこ)だもの。お父さんはお母さんには勝てません。」
お母さんたちよ。
子供はこの困難な世界で、自分のいのちを一生懸命生きています。いのちの声を聞き、いのちに向かい合い、いのちを抱きしめ、いのちの力を信じよう。
何より、春を迎えて日本中に母なる笑顔が溢れてほしい、と願うこの頃。
内藤いづみ