エッセイ

心の旅路

110111_01.jpg年末のヨーロッパの寒波のニュースやフライトのキャンセルの情報に、夫は「スコットランドで買った、厚いシープスキンの防寒コートを着て行けば大丈夫。アドベンチャーだね」と私の背中を押してくれたし、「内藤さんならきっと寒波も吹っ飛ぶよ」と友人たちの根拠の薄い声援を背に私は年末、イギリスへ飛び立った。


重症の患者さんたちには、出来うる限りの手当てを検討し、「私の帰りを必ず待っていて下さいね」などと、些か自分勝手なお願いをした。
幸いなことに、旅程は順調に進行した。私の旅の主な目的は、86歳のイギリス中部地方でひとり暮らしをしている義母の様子を見に行くこと。(今回、夫は日本に留まることに)
ところで、携帯電話は私の仕事に欠かせない。
在宅ケアを引き受けると、病状が安定していても、 24時間私の心は患者さんと繋がっている。
特に、進行がんである場合、いつ何が起きるかは予想できなくて、静かに心はいつも緊張している。
一時も休むことはできない。
旅の間は、国際携帯電話を持たずに、定期的な連絡のみにした。
ロンドンに3日ほど滞在した。どんどん心が軽くなり、自由を感じた。
まず、眉間の深い2本のしわが薄くなった。肩こりが消えた。時差にも関わらずぐっすりと眠れる。
クリスマスイルミネーションの残るロンドンの通りの美しさに目を奪われる。
毎日違うお国柄のレストランを見つけ、知らない味を体験する。
(何と言ってもロンドンは世界一の人種のるつぼになっている)
食べる、歩く、見る、感心する、感動する、あちこちの通りの教会の鐘の音に立ち止まり、世界の平和を祈る。24時間、いのちに責任を持つ日常を離れ、自由な心で改めて自分自身の「生と死」を考える旅。
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シェイクスピアヘッドというパブの黒ビールやハムサンドイッチを味わいながら、今まで出会った人々や家族に心から感謝できた旅の空。
旅は私にとって、ひとつの瞑想(メディテーション)なのかもしれない。
ロンドンでは、街の中を流れるテムズ川が大きな存在である。テムズ川には観光以外に水上バスもあるし、小さな運河の水上バスもまた意外なロンドンが見れて楽しい。東京での隅田川がもっと注目されてほしい。
ロンドンのクリスマスセールの凄まじさは世界的に有名。
VAT(消費税)が1月初めに20%になるので、買い手も売り手も熱気が高まっていた。
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昔、シェークスピアが劇を上演していたグローブ座が同じ場所に再建されている。
演劇は4月~10月。屋根はない。年末は劇場見学のツアーがある。
私たちの宿はピカデリーサーカスのそばで便利なところだった。
歩いてミュージカル「オペラ座の怪人」を鑑賞に行けた。
出演者はもちろんびっくりする歌唱力の人たちばかりでゴシックホラーの怖さも含めて堪能した。
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名画揃いのナショナルギャラリーもホテルからの散歩コース。
私はモネとマネの部屋が特に気に入った。
トラファルガー広場からはビックベン(時計台)が遠くに見える。
側の聖マーチン教会は、年末年始は中が暖かく保たれていて、ホームレスの人たちが暖を取っていた。ユニークなステンドグラスがある。
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あちこち歩き回ったが、とにかく外は寒い。厳冬のロンドン。シープスキンコートは夫の言った通り強い。寒さをあまり感じないで済んだ。
幸いなことに義母は元気で暮らしていた。お手伝いするつもりが、おふくろの味を毎日たくさん作って頂いた。イギリスのおふくろの味は美味しいのだ。(ビーフシチュー、ローストチキン、ボイルドハムなどなど)
私たちが住んでいた頃に比べてイギリス(特にロンドン)は、更にパワフルに国際的になった。庶民も国力もしたたかに逞しく、元気だと感じた。日本も元気になってほしい。
帰国したら「太陽が眩しい!」。
旅の間の10日間、ほとんど太陽を見なかったせいだ。
重症患者さん方も落ち着いていて下さった。
さて、太陽のエネルギーに感謝して、今年も一歩ずつ歩んで参ります。
どうぞ皆様よろしくお願いします。