ホスピス記事

近況

在宅ホスピス医としては、忙しいのを自慢するのはよくない。でも、色々が重なる時がある。
先月の新月の日にほぼ同時にお二人亡くなったように。

看取りは瞬間ではなく、経過、プロセスだと思う。命に向かい合う1日1日の積み重ねの先に看取りがある。
プロの私達には、寄り添う家族の限界もわかる。
最期の命を生き抜く人を支えるのと同じくらい、家族も応援する。
あと、すこしだよ、大丈夫、できるよ、と。
疲れ果て、もう、できません、こちらが先に逝きそうという介護者の声を聴き遂げたかのように病人は安らかに旅立つ事が多い。

昨日お亡くなりになった高齢の女性は、一年を安定してお過ごしになった。
娘さんが、手厚く介護した。
思い出すと、何て毅然として、優しく、ユーモアある方だったかと思う。
珍しい腫瘍だった。なぜこんなものができたんだろうと、よく笑って
聞いてきた。
これも、自分の一部なんですよ。あまり叱ってはダメ、と答えた。
そうですか、軽くコツんとしてもいいですか?困ったちゃんだ、と愛らしく笑った。
甲州人らしく働き者。90歳まで自転車に乗っていた。田植えも葡萄も手伝った。
今はこんなに休ませてもらって、申し訳ない。草むしりぐらいできるよ、と半ば本気で言った。
命に寄り添う事ができると、命は最期の瞬間まで命の炎を自分の力で
燃やす。医療に大きく介入されていると見えない様子だと思う。
この女性もこの方らしく命のエネルギーを燃え尽くして昇天した。

そんな10日の間、前々からのお約束でトンボ帰りで札幌に講演に行ってきた。
恒例の薔薇のお家文庫での講話会とガモウ株式会社主催の大きな講演会。
これには現役の若い美容師さんが集まってくださった。
社会の変化といのちの現場をお伝えした。少しびっくりした様子だった。
札幌ではまだ薔薇は蕾だった。

先の重症の女性は最期の日々は一進一退だったので私も連日、あまり熟睡できず夜中のオンコール、呼び出しに備えた。
そして迎えた旅たちの日。皆さんがよく頑張った。家でのみとりは甘くないけれど、それぞれに大きな学びが与えられたと思う。
私は臨終を告げて、その足で看護学生達の講義に向かった。
相手は20歳の若者達。
お~い。昼過ぎだけど、若者達よ寝るなよ!
私が見てきた大切ないのちの話をするから!そんな掛け声で授業を進めた。
そんな一週間だった。
しばらく、英気を養う時を持ちたい。