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空気を読む

KY(空気がよめない)という略語が若い子の間ではやっているらしい。日本独自の「和」あんもくをつくる想像力のいる暗黙の働きに若い子たちも気がついている、ということだろうか。


 先日、十四歳の娘と長旅をしてやっと新宿駅にたどりついた。甲府まであと少し。ホームにある立ちぐいそばに二人で目がいった。急にあたたかいものが食べたくなつた。店内の片側には五つほどイスがあって、席がとれた。立ちぐいそばは、男性(特にサラリーマンのおじさん)の牙城で、私たちが入るのには〝おきて〟風なものを感じて勇気がいる。
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私たちはすみでひっそりとそばをすすり始めた。そこに大きな荷物と三人の幼児を連れた若いお母さんが入ってきた。その場に慣れない母親がうろうろしたので、さっと入って、さっと食べて、さっと出るというおじさんたちの店内の動きは完全に中断された。すると、すわっていたおじさんたちが迷惑そうな顔も見せずに井を片手にさっと立ちあがり、母子に席をゆずってくれた。店内は混雑していたが、あたたかな空気が流れ母子は(私たちも含めて)ほっとして安心して食べることができた。おじさんたちはそのまま戦士のように店のまん中に立って、あっという間にそばをすすると風のように出ていった。日本の伝統「空気を読む」ことがさらりとできるおじさんたちはすてきだ。
負の報道の多いこの頃ですが、〝人間って捨てたものではないな〟という日常の断面を書きとめていきたいと思っています。
(同朋20081月号からの抜粋)