エッセイ

イギリス旅日記2007(Vol.1)


10月のおわりに10日程、なつかしいスコットランドから夫の母の住むイングランド中部まで旅をしました。
スコットランドのグラスゴー市は、1980年代の半ばから7年程住み、隣人や友人に恵まれ、現代ホスピスの創始期の動きを一市民として学びながら、ふたりの子どもを産み、育てたところです。
手紙好きの夫が15年間定期的に送り続けている、“甲府クラリオン”と呼ぶ“今月の内藤家の話題集”のおかげで、ありがたいことに友人も隣人もいつも私たちのことを身近に思い出してくれています。
在宅ホスピスケア医が10日も外来と往診の仕事と家庭を留守にするのにはすることがたくさんあり、重症者の対応を含めて、あちこちにお願いしたり、出発前はかなり慌しいものでした。
そして、何より旅に大事なことは、旅の友の存在です。私はいつも旅の友には恵まれています。
今回は、不思議なご縁で知り合ったAさんに声をかけました。同年代で、同じ年頃の娘をもっている女性です。何より明るいこと、元気、好奇心があり積極的、何でも食べれそう・・・
それが旅の友としては大切な条件です。
外の世界では、いつ何が起きるか分かりませんので危機に際して敏速に行動できる体力も必要。Aさんはぴったりの人でした。
お互い、相手を“できそうな人ね”と思いつつ出発しましたが、ふたりとも案外と抜けていることも多く、ふたりで何事にも「ワハハ」と明るく、時にはまぬけに、しかし互いの強運を信じられる、という脳天気さもぴったり合って、おそらく傍から見ると珍道中をくり広げたのでした。
ふたりとも主婦をしていますので(私はかなりの部分を夫に助けてもらっていますが)、何よりも身の軽くなる“旅”を感じたのは、家族から離れて、ただ自分たちのその日の食事や楽しみを充足していけばいいという信じられない程の気楽さでした。自分を二の次にして、まず家族の衣食住の責任を負う主婦の日常の仕事の大変さから解放された、ということでした。
グラスゴー市にある、プリンス アンド プリンセス オブ ウェールズ ホスピスは来年が設立25年です。私は創始期に関わった人間としてインタビューを受け、20年前からずっと交流してきた友人たちとも再会しました。また別の章でくわしくお話しますが、日本で広がっている緩和ケア病棟と、イギリスのホスピス活動は、やはり根源的に大きく異なることを再確認しました。
izumi1984_001.jpg(1984年当時のチャッツワースにて)
今回は、まず大きな出来事としてお知らせしたいことがあります。私にとっては大ニュースです。夫のふるさとの大自慢のデボンシャー伯爵夫妻のお住まい“チャッツワースChatsworth城”を訪れた時に、〈お城は市民に公開されています〉何と、元伯爵夫人にお会いすることができ、書籍にサインを頂き、おまけに写真まで一緒に撮ることを許されました。
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「あなたは幸運だわ。もうここには住んでいないので、たまにしか来ないのよ。」
「もう何年も前、私の子供たちがご一緒に卵拾いをさせて頂きました。」
「まあ、そう?チキンを飼うのは私の大好きな趣味なのよ。」
元伯爵夫人は広大な領地を背にそう微笑みました。何しろその本の題名が
『私のにわとりを数えながら・・・(Counting My Chickens)』なのです。
その時の様子が分かりますので、2002年に毎日新聞に掲載されたエッセーを重ねてお読み下さい。
チャッツワース城と若い頃の私の写真も載せますね。
城の内部は調度、絵、壁画、全てすばらしいものです。
ご興味のある方は、チャッツワースのホームページを覗いてみて下さい。
イギリスの旅日記は続きます。おたのしみに。